【昭和歌謡名曲集17】孤立無援の唄 森田童子
暗黒童子。森田童子の歌である。初め男かと思ったが女である。いつもサングラスをしているので素顔は知らない。上から下まで真っ黒の服で、黒テントでコンサートをやっていた。突然歌手をやめ主婦になった。もう亡くなったという。なかにし礼の姪である。礼の、あの兄貴の娘である。そのことは公表されなかった。
ドラマ「高校教師」の主題歌に「僕たちの失敗」が採用されてプチブレークしたが、その時はもう引退していた。
私は「ーー失敗」より「孤立無援の唄」の方が好きである。
歌の内容はちょっと「いちご白書をもう一度」に近い。でも、男女ではないようだ。男同士みたいだ。二人は万引きした高橋和巳の「孤立無援の思想」を読んだり逆立ちしたりプロレスごっこしたりしている。そしてたぶん片方が就職する。もう片方はまだこうしていたい、と思っている。そんな、気怠い、ぼんやりした、受け身の絶望感が淡々と淡々と歌われていく。
高橋和巳。学生運動の時代、学生側に立った立命館の学者、作家である。「悲の器」「邪宗門」の人である。私は読んでない。
ただ和巳が書いた次のエピソードだけは読んだ。
学生運動で大学をバリケード封鎖する中で、ただひとつ、煌々と灯りのつく研究室があった。白川静の部屋である。それを見て和巳は何があろうと研究する静の姿勢に粛然とする、というものだった。
歌にやられた私は勿論「孤立無援の思想」を買ってきた。そして勿論読まない。難しすぎた。読まない、読めないから、ますます歌が好きになる。ちょうど静の研究室の灯りを見上げる和巳のように。
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