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【短編連作】神木町

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2023年10月の記事一覧

【短編小説】赤マント

【短編小説】赤マント

 夜更けし帝都の街並みを、駆け行く怪しの赤マント。月光眩しと見あぐる顔は、恐ろし邪悪の白仮面。可憐な少女を小脇に抱え、鮮やかコルトのガンさばき。唸る銃声。伏すは官憲。たちまち上がるは土煙。
「諸君。外れたのではない。外したのだよ。今度会うまで、その命預けておこう」
響く怪異の笑い声。忽然と、消えたる魔人の影帽子。
「どこだ」
「どこにいる」
「警部、あそこです」
指さす先にアドバルーン。下がるロー

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【短編小説】電気工事士2種

【短編小説】電気工事士2種

「また、マンガ描きよろうが」
見られた。慌ててノートに体を被せる。
「なんじゃ、勉強しよると思うたら、またサボりよる」
幸子は右の肩越しから覗き込み、なんとか見ようとする。
「うるさいのう。あっち行かんかい」
「従業員の分際で、社長の娘に、よう言うた。お父ちゃんに、言いつけてクビにしちゃろうか」
今度は左の肩越しに首を出す。
すかさず首を傾げてガードする。
「なんが社長か。電器屋の親父じゃないの。

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【短編小説】八百青

【短編小説】八百青

 八百青の源さんは今年五十になる。母が言うのだから間違いない。母は子供の頃、八百青によく使いにやらされて、二つ上の源さんに会うのが嫌だったそうだ。
 三年前、商店街の近くに大型スーパーができて、まず魚屋が店を閉めた。次には肉屋が。そして酒屋。花屋。最後に洋服屋。あっ、靴屋も。
 実際言って八百青は、真っ先に潰れてもおかしくなかった。なのに、まだ続いている。それは源さんのお母さんのハルさんのお陰だと

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【短編小説】映画

【短編小説】映画

 電話の相手は相良と名乗った。日曜の夕方で、幸子は娘と買い物に出掛けていて、家には俺しかいなかった。
 相良? 誰だっけ? と最初ピンと来なかった。高校名を言われて、ああ、あの相良か、同級だったやつ、と思い出した。しかし、もう10年以上、会ってない。
「思い出した。すげえ久しぶりだな。どうした?」
「実は山本にさ、折いって頼みたいことがあって」
 悪い予感がした。
「金、貸すとか無理だかんな。あと

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