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【短編連作】神木町

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01神木町【プロローグ】

01神木町【プロローグ】

神木町・あらすじ

はじめは六人の若者の話。
小学生のタツは母親の汚名をカナコと晴らそうとする。
中学を卒業して働く健ちゃんとさえ子は、経済的な自立を模索する。
中学生の研ちゃんは漫画家に憧れ、同級生の幸子は失踪した母と残された父を思う。
6人は、精一杯生き成長してゆく。

それから、三人の物語。
OLの町田さんはヨッちゃんに危ないところを救われる。
高校生の相良は、近所のお婆さん達と交流する中で

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02 赤マント

02 赤マント

 夜更けし帝都の街並みを、駆け行く怪しの赤マント。月光眩しと見あぐる顔は、恐ろし邪悪の白仮面。可憐な少女を小脇に抱え、鮮やかコルトのガンさばき。唸る銃声。伏すは官憲。たちまち上がるは土煙。
「諸君。外れたのではない。外したのだよ。今度会うまで、その命預けておこう」
響く怪異の笑い声。忽然と、消えたる魔人の影帽子。
「どこだ」
「どこにいる」
「警部、あそこです」
指さす先にアドバルーン。下がるロー

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03 酔っ払い

03 酔っ払い

 千円札を握りしめて、夜の道を走った。駅に近づくにつれ、人通りが多うなる。通りを折れて路地に入ったところで走るのをやめた。目の前に赤提灯、縄のれんを潜って引き戸を開けた。大人たちの笑い声と煙草のにおい。カウンターの端に父ちゃんが突っ伏しておった。
「おう。タツ坊か。ヤッさん。お迎えがきたよ」
飲み屋の親父さんが声をかける。でも、父ちゃんは眠ったままじゃった。
「おっさん。お迎えだってよ」
隣の男の

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04 丸出だめ夫

04 丸出だめ夫

 今日はタツが休みじゃった。どうせまた、父ちゃんの手伝いさせられとんのじゃろう。と、思っていると。
「まずいのー! なんじゃこれ。人の食うもんじゃねえど」
まあた始まった、相良の給食クサシが。旨かろうが不味かろうが、黙って食え。バカモンが。まあ、確かに、そんなに旨くはないけどな。

 ヒジキの煮物に、ナスと竹輪と豆が入っている。あと微かな肉片。

 それがオカズ。あとコッペパンとマーガリン、脱脂粉

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05 大工

05 大工

 母ちゃんは、結局五時頃に戻ってきた。ハツコをおんぶして、買い物かごに大根やら白菜やらを入れて。じゃから買い物をしていたのに間違いはない。でも遅いと思うた。理由は訊けんかった。
 わしが今日小学校をサボったからじゃ。それが母ちゃんにバレては困るんで、余計なことは言わん。自分では行くつもりであったが、今朝、父ちゃんに、学校なんか行くな仕事を手伝え、と言われた。二日酔いで仕事どころでなかったんじゃろう

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06 団子屋の息子のこと

06 団子屋の息子のこと

 いつも必ずお代わりし、時には、誰かが残した給食まで頂こうとするカナコに異変があったのを、わしは先週から気づいていた。
 給食半ばで人目を盗んで、カナコはパンを半分に千切り、その半分をプリントに包み、机の中に突っ込む。本人だけ知られてないつもりでおるが、カナコより後ろの席の者は、とうに気づいておった。ただ、そんなこと言うても、カナコが大騒ぎするだけで面倒くさいので、だれも何も言わんだけじゃった。

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07 式歌を弾く者

07 式歌を弾く者

「郷田満子ちゃん家には、ピアノがあるぞ。それが、どんなに羨ましいことであるのか、お前には分かるまい」
「分からんの」
「それもの、アップライトピアノじゃのうてグランドピアノじゃ」
「どう違うのか」
「第二音楽室にある、ちっさい、四角いピアノがアップライトでのー、第一音楽室やら体育館やらに置いてある、奥行きのある、でっかいんがのー、グランドじゃ」
「お前、なんでそんな事に詳しいんじゃ」
「満子に習う

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08 橋

08 橋

 山田川にかかる木橋の側に立つ。欄干に付いている橋の名前のプレートを雑巾でゴシゴシ拭いた。
花容橋。
「なんて読むんじゃ」
「カヨウバシかの」
「ええ名前じゃ。初めて知った。どういう意味じゃろ」
「知らんわ」
幸子はそう言って写真を撮る。

夏休みの宿題が、"町を調べよう"だった。
「お年寄りに昔話を聞いてもいい。町のハザードマップでもいい。神社やお寺の由来を調べても、商店街のお店を調べてもいい。

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09 電気工事士2種

09 電気工事士2種

「また、マンガ描きよろうが」
見られた。慌ててノートに体を被せる。
「なんじゃ、勉強しよると思うたら、またサボりよる」
幸子は右の肩越しから覗き込み、なんとか見ようとする。
「うるさいのう。あっち行かんかい」
「従業員の分際で、社長の娘に、よう言うた。お父ちゃんに、言いつけてクビにしちゃろうか」
今度は左の肩越しに首を出す。
すかさず首を傾げてガードする。
「なんが社長か。電器屋の親父じゃないの。

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10 母帰る

10 母帰る

 見たのは三度目だった。
台風で、山田川の堤防が崩れて、後少しで決壊しそうになった。それをコンクリートで固める護岸工事があって、今、川に以前の面影はもう残っていない。次には老朽化した橋を架け替えると、もっぱらの噂だった。
 それが証拠に、護岸工事で集まってきた労務者たちの多くは、近くの安アパートを引き払わず住み続けている。
 ワシはこの橋に愛着があった。この春、学校の宿題で、幸子と橋の由来について

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11 母、逃げる

11 母、逃げる

「サッちゃん。ちょっと」
 振り返ると、人混みの中にしのぶさんが立っていた。今日は祭りなんで神社の白い半被を着ている。
「あ。こんばんは」
 しのぶさんは、うちのお母さんの親戚だ。姪とかいってたっけ。この神社に嫁に入った。お母さんが出て行ってから、親戚同士はなんとなく疎遠になっていったけど、しのぶさんだけは、今も何かと私を気にかけてくれている。
「ちよっと、いいかな」
 しのぶさんがまた言う。側に

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12 神楽舞

12 神楽舞

 夏祭りの夜に境内でその勝負は始まった。
 晩方、俺は神楽が見たいというカナコんところの清子婆さんと神社に来ていた。一緒に行くはずだったカナコは、熱を出して寝込んでいる。カナコの母ちゃんに頼まれて、俺が行くことになったのだ。
「タツ、すまんのう」
「なんの。カナコには借りがあるけえの。それより、御神楽が今年で終い言うんは本当か」
「神社の修繕があるちうからの。おう、タツの親父も大工で入っとるらしい

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13 生活

13 生活

「健ちゃん。二種取れたんだって?」
「はい。お陰様で」
 この春の試験で、ようやっと電気工事士2種の資格がとれた。これで、屋内配線の工事も、電器製品の取り付けもできるようになった。時間はかかったが。
 運転席の義正さんは、大学が休みの間、親父さんの電器店を手伝っている。アルバイト代も出るらしい。親子といえども、そこはしっかりしている。
「幸子が言ってたぞ。随分勉強、頑張ったって」
「三年かかりまし

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14 さえ子

14 さえ子

「やっと仕事が決まったんに、もう辞めるちゅうの」
お母ちゃんは、ため息をついて、天井を見上げる。
「定時制高校に行きたいんじゃ」
ずっと考え考えして、今日やっと言えた。言ってしまえば、もう後戻りはできない。
「定時? 夜学か。行ってどうするんじゃ。銀行員にでもなるつもりか。アホらし。そんなんなれるか」
「別に銀行員にならんでもええよ。簿記とかの勉強をして、ちゃんとした会社にはいりたいんじゃ」
「あ

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