「セントラルスクエア」「BLANDE」「Foocot」差別化を目指すスーパーマーケット新業態の狙いとは ~店舗の異業種・新業態(後編)
前回、実店舗の異業種展開の動向について紹介させていただきましたが、今回は売上・粗利改善を目的に、既存店舗とはブランドや仕組みが異なる新業態にチャレンジしている事例に注目。ここ数年、国内でもスーパーを中心に様々な動きがある中で、小売業DXの有識者・郡司昇氏に話をお聞きしてみました。
ーー近年は国内のスーパーで新業態や新ブランドを展開するケースが増えているように感じます。何か気になっている事例はありますか?
郡司氏:個人的に興味深かったのが、ライフの旗艦店「セントラルスクエア」ですね。恵比寿ガーデンプレイス店に何度か足を運んだことがありますが、特徴的だと思ったのはスーパー特有の“カテゴリーのセクショナリズム”に囚われていない点です。通常、スーパーは肉や魚、青果、グロッサリーなどの部門ごとで売上を管理していることが多いので、その結果「刺身コーナーに醤油やわさびは置かない」といった“お店目線”の売り場作りが起こりがちなんです。セントラルスクエアに関しては完全に“生活者目線”で売り場を組み立てているので、魚のコーナーに鮮魚やチルドの魚、加工調理した魚、冷凍の魚などが分け隔てなく並んでいます。
それから、取り扱っている商品のSKUの多さにも驚きました。通常、数百店舗展開するチェーン店だとSKUを絞って安定供給できる商品を置いたほうが効率は良いはずなのですが、ライフ既存店では取り扱っていないような珍しい商品やこだわりの商品、高価格帯商品を幅広く取り揃えているんです。おそらくセントラルスクエアでよく売れる商品を既存店にも水平展開するなど、“ヒット商品”を見つけ出す場としての活用も想定していると思うのですが、かなり実験的な店舗だと思います。
ーー恵比寿ガーデンプレイス店のセントラルスクエアといえば、ライフでは「リアル店舗・ネットスーパー・オーガニック」がシームレスにつながる次世代型スーパーマーケット『SUPERMARKET 4.0』と位置付けられていますね。ちなみに、セントラルスクエアでは独自のPB商品も販売しているのでしょうか?
郡司氏:セントラルスクエア独自のPB商品はないと思います。ライフでは複数のPB商品を展開しており、スマイルライフというメインブランドが売上トップ、次に続くのがヤオコーと共同販売しているスターセレクトです。ただし、一番PRに注力していると思われるのが、オーガニック食品や健康志向の商品を取り揃えた「BIO-RAL(ビオラル)」ですね。他のPBと比べてまだまだ売上規模は小さいのですが、メディアでよく取り上げられていますし、アプリで配布されるクーポンもBIO-RALの商品が非常に多いです。
ーーBIO-RALはセントラルスクエアと同じく恵比寿ガーデンプレイス店に併設されていますね。BIO-RALに注力する背景には、どのような狙いがあるのでしょうか?
郡司氏:やはりアメリカではオーガニックをメインに扱う小売企業が増えているので、今後日本でも需要が高まることを見越して先行投資しているのだと思います。単なるPBというだけだと他社との差別化イメージをつくるのが難しいところもありますが、オーガニックに特化したPBということで、他社のPBとの差別化も図れますよね。
ーーなるほど。確かにライフコーポレーションの決算発表資料を見ると、独自性の高い商品を追求する取り組みとして、「オーガニック」「ローカル」「ヘルシー」「サステナビリティ」の4つのコンセプトからなるBIO-RAL事業を展開し、差別化を打ち出していますね。約200アイテムのラインナップといった商品開発を強化し、BIO-RALブランドの新店をオープンするなど、事業拡大を目指しているようです。
このように、競合他社のPBとの違いを作るための新ブランド展開も考えられるのですね。ちなみに、以前インタビューさせていただいた時も、高齢化社会が進むと地方でスーパーが減っていく可能性があるという話をされていました。その課題に対して、新業態を展開することで集客につなげることも考えられそうでしょうか?
郡司氏:はい。例えば、U.S.M.Holdingsが茨城県つくば市に展開しているカスミの新業態店舗「BLANDE(ブランデ)」の会員制プログラムは面白い取り組みですよね。有料会員だと3,000/5,000円の年会費に応じてアニバーサリー特典や季節のお花プレゼント、5,000円会員であればラウンジスペースで休めて、無料コーヒーサービスなどが受けられるもので、近所に住んでいれば買い物に行くたびにコーヒーを無料で飲めるのは大きいでしょうね。例えば週2回スーパーに行くとして年間100回コーヒーの無料サービスを利用できると考えると、それだけでも価値を感じられると思うので、こういった継続してもらえるような価値を提供できさえすれば、一定のロイヤルティを獲得できる可能性があると思います。
ーーなるほど。こういったスーパーでの会員向けサービスが今後どうなっていくのかも注目したいところです。ところで、新業態に取り組む動きの中で、既存スーパーがディスカウントストアを展開するケースがありますが、こちらは何か狙いがあるのでしょうか?
郡司氏:そうですね。例えばヤオコーは神奈川県を中心に展開するエイヴイを完全子会社化することで新たに新業態の「Foocot(フーコット)」を展開しています。この買収の背景には、「エイヴイのノウハウを吸収する」というヤオコーの狙いがあると考えています。スーパーは商圏を広げていく際に、今までのやり方では獲得できない顧客層が必ず存在するので、新たな顧客層を獲得する手段の一つとして、その商圏で成立しているノウハウやビジネスモデルを取り入れることが有効です。さらに今までと同じやり方で店舗運営をすると赤字になってしまうので、エイヴイのノウハウを吸収することで商圏拡大を推し進めているのではないでしょうか。
ーー同じスーパーでもヤオコーとエイヴイではノウハウが異なるのでしょうか?
郡司氏:はい、例えばヤオコーは魚を店内で加工していますが、エイヴイはプロセスセンターで加工しているので店内では加工しません。商品の陳列方法もヤオコーは1品1品丁寧に並べていますが、エイヴイは牛乳などカゴやケースごと陳列することで作業効率を高めています。もしかすると今後はヤオコーで作った総菜をエイヴイに運んで販売するなどの連携が生まれるかもしれませんが、ヤオコーとエイヴイの強みを合わせたお店が出来上がるかどうかはこの先の話ですね。現状に関しては、今までと異なる商圏や異なる客層に展開する際は必ず競合とぶつかるので、そこに対抗していくための新しいノウハウを買収によって手に入れているケースだと捉えています。
ーーなるほど、商圏拡大や新規顧客獲得の手段として新業態や新ブランドを展開する戦略もあるということですね。
次世代型スーパーマーケットを目指すライフの「セントラルスクエア」、U.S.M.Holdingsの「人」「食」「生活」「文化」が商品・サービスを通して交じり合うお店を目指す「BLANDE」、「商品の圧倒的な安さと鮮度、品揃えで満足できる店」をコンセプトに掲げたヤオコーの新業態「Foocot」と、各社それぞれの戦略で新店に積極投資する流れが印象的でした。こうした新しい店舗がどのように発展していくのか、今後さらに新しい業態のスーパーマーケットが登場するのか、引き続き動向に注目していきたいと思います。
今回も参考になるお話をありがとうございました。
【プロフィール】
郡司 昇(ぐんじ のぼる)
店舗のICT活用研究所 代表
ドラッグストア大手ココカラファインでEC事業会社社長として事業黒字化の後、全社マーケティング戦略を策定。マーケティングとECの責任者兼任。現職は小売業のデジタルトランスフォーメーションにおける小売業、ベンダー、顧客の三方良しを支援するコンサルタント。著書に『小売業の本質: 小売業5.0』