インバウンドに人気のお店のマル秘テクニックとは
多くの人が街を行き交い、飲食店もかつての賑わいを取り戻しつつある印象がありますが、業態によってはコロナ禍前と比べ、まだまだ売上が伸びきらない状態が続いているようです。
その突破口として注目を集めているのが、インバウンド集客。一部ではコロナ禍以前の実績を上回るほど訪日外客数が増加している中、円安の影響もあってインバウンド消費に期待がかかっています。
今回は、インバウンドの集客に成功している飲食店の取り組みを「飲食店経営」副編集長の三輪大輔さんにレポート頂きました。
2022年10月に新規入国制限の見直しがされて以降、インバウンド需要が急速に回復しています。2023年8月には、215万7,000人が海外から日本を訪れ、2019年同月比では85.6%まで回復しました。今後、中国からの旅行者の増加が見込まれており、さらなる伸びが期待されています。
一方で、居酒屋を中心とした飲食店は、コロナ禍前と比較して売上が戻りきっていません。実際、一般社団法人日本フードサービス協会の調査でも、「パブ・居酒屋業態」の2023年8月度の売上状況は前年同月比で150.3%の伸びを示したものの、2019年比だと66.5%にとどまっています。
大きな原因の一つが、「2回転目の消失」です。コロナ禍を経てから、なんとなく流れで居酒屋を利用することが少なくなりました。1軒目だけで帰る方が増えた分、売上が伸びず、コロナ禍前と比較して市場が縮小した状態が続いています。ここにコスト高や人手不足の問題も加わり、多くのパブ・居酒屋業態が窮地に立たされているといっても過言ではありません。こうした背景を受けて、いかにインバウンドを集客できるかが重要になっています。
その中で、インバウンドをうまく集客することで15時から満席が続き、売上を伸ばし続けている飲食店もあります。そこが株式会社KITSUNAIの運営する「肉汁水餃子 餃包(ぎょうぱお) 新宿店」です。今回は、同店の取り組みを通して、インバウンド集客の成功に欠かせないマル秘テクニックをレポートします。
高いサービス力と押しの一言で、トリップアドバイザーの運用に成功
同店の看板メニューは店名にもある通り、水餃子です。同店の水餃子は小籠包のように溢れ出る肉汁が特徴で、店に行かないと食べられないメニュー提案に強みを持っています。例えば、鉄鍋で提供される水餃子は白湯スープや火鍋スープなどと一緒に入っていて、まるで鍋のような感覚で楽しめます。「〆の雑炊」(税込み429円)などが用意されているので、〆としてオーダーするお客様も多いです。お客様の中心は20代の男女で、店内には新宿という立地もあって会社員の姿も目立ちます。
こういった特徴を持つ同店は、インバウンド集客にも成功していて、現在、売上の70%をインバウンドが占めています。その勢いはすさまじく、2023年2月から過去最高売上を更新し続けており、需要の伸びはとどまることを知りません。インバウンド集客の状況について、同社オーナーの橘内久米樹氏はこのように話しています。
「インバウンドを集客するため、私たちは3年ほど前から力を入れて、さまざまな施策を打っています。中でも最初に注力したのがトリップアドバイザーです。トリップアドバイザーの運用にはお金がかかりません。それにもかかわらず口コミの効果が大きいので、そこでの評価が上がるように、口コミの獲得に力を入れました。
ただ、規約があるので、例えば口コミを書いてもらう代わりに、一品サービスといった提案はできません。だからこそ、私たちはサービスレベルや商品価値の向上に努めています。まずお客様に満足していただけるサービスや商品を提供した上で、最後の一押しとして口コミのお願いをしているのです。そうした大前提があるため、口コミの件数が集まるだけでなく、高い点数も獲得できていると考えています。
いわば、口コミはお客様満足度の定量化です。口コミの件数が多ければ、それだけ満足していただけたお客様が多いということになりますし、口コミが獲得できなかったら、良いサービスができたと勘違いしている可能性があります。お客様からのフィードバックを真摯に受け止めて、お店のレベルアップにつながる仕組みをつくっています」
こうした取り組みが実を結び、同店はトリップアドバイザーの「新宿区のグルメ・レストラン」の中で、1位を獲得しています。その事実だけでも、インバウンド客から興味を持ってもらえる可能性は高いです。
テクノロジーも活用し、インバウンドの集客に取り組み続けられる体制を整備
同店ではトリップアドバイザーの他にも、自店のホームページをしっかりと作って「Googleビジネスプロフィール」の運用にも力を入れています。トリップアドバイザーでお店に興味を持った人がホームページに飛ぶように設計し、英語メニューを用意するとともに予約フォームも準備。「旅マエ」のインバウンド客を中心に、そうしたメニューを確認してからの予約が増えていて、現在、3カ月先まで埋まっています。先々の予約まで埋まることで売上が安定するのはもちろん、食材のロスや人材の効果的な配置も実現するため、店舗運営全体にもたらされるメリットは大きいです。
加えて、サイトや広告、売上などを分析できるサービスを活用して、どのような検索ワードでホームページにたどり着いたかを解析。その結果を踏まえて、「ベストレストラン」というキーワードを使ったり、漢字・ローマ字・カタカナで「餃子」という単語を使い分けたりして、地道な改善を続けながらインバウンド集客の最大化を図っています。
一方、同店ではブログをはじめTikTokやInstagram、X(旧Twitter)などのSNSでの情報発信にも注力しています。実際、同店を知るきっかけとして多いのがInstagramとTikTokです。その内容も特徴的で、飲食店のSNSだと店舗やメニューの紹介をすることが一般的です。しかし、同店では“飲食あるある”をまとめた、少し面白いエスプリの効いた動画を上げています。1本の動画が1,500 万回再生されることもあり、それを見て海外からだけでなく、北海道や沖縄から訪れるお客様も珍しくありません。
とはいえ、ブログやSNSの運用は、日々のオペレーションに落とし込むと作業の負担が大きく、継続していくのが難しいのも事実です。そこで同店では、ここでもテクノロジーを積極的に活用し、ブログやSNSへの投稿をまとめてできるサービスを活用しています。それを使うと1カ月前から投稿の予約できるため、毎日、投稿の業務を行う必要がありません。投稿のクオリティを落とさず、毎日更新し続けられる体制を整えているからこそ、集客につながるブログやSNSの運用ができています。
インバウンド集客の成功によって起きた変化について、橘内氏は次のように話しています。
「インバウンドのお客様は、旅行中に何軒も店を回りたいと考えている方がたくさんいらっしゃいます。以前まで当店は17時オープンだったのですが、お店が営業しているかどうかを確認しに来店されるインバウンドの方が多かったため、営業時間を2時間早めました。その結果、アイドルタイムだった15時から17時の集客に成功し、月間で500人近くお客様が増えるとともに売上も伸ばすことができています。
お客様が増えたことで、トリップアドバイザーやGoogleの口コミも飛躍的に伸びました。それが、まだ来店されたことのない方の目に留まって次の集客につながるなど、良いサイクルが生まれています。その流れをつくれたことがインバウンドを集客できた一番の要因ではないでしょうか」
インバウンド需要の高まりをうまく捉えているからこそ、同店はポストコロナ社会でも力強い成長を続けられているといってもいいでしょう。こうした状況を踏まえて、橘内氏は会社の今後の展開をこのように語っています。
「2030年には、訪日外国人旅行者数が6,000万人になるといわれています。そうした未来を見据えて、当店では日本人客とインバウンドという区別をなくし、全世界のお客様をターゲットにした集客施策を進めていくつもりです。さまざまなお客様に楽しんでもらえる店づくりが、今後、生き残っていく上で必要不可欠になると考えています。
また、当社では2033年に海外進出を実現するというビジョンがあります。現在、日によっては店内のお客様全員がインバウンドの方というケースも珍しくありません。いわば、海外出店の予行演習だと思っています。だからこそ、一日一日の営業を大切にしながら着実にノウハウをためていって、海外でも成功ができるように取り組んでいきたいです」
※商品の金額は2023年10月のものです。
(取材・文:「飲食店経営」副編集長 三輪 大輔)
インバウンド集客に成功しているお店の“マル秘テクニック”をレポートしていただきました。トリップアドバイザーを中心にホームページやGoogle ビジネスプロフィール、各種SNSなどさまざまなデジタルチャネルを駆使して効果的に情報発信をしていることはもちろん、お客様からのフィードバックやデータ分析を用いてコンテンツやサービスを改善している点や、無理のないオペレーションの工夫も見逃せません。決して一過性の施策ではなく、2033年に海外進出というビジョンのもと継続的に取り組み続けることで好循環が生まれ、過去最高売上更新という成果につながっているのではないでしょうか。さらなる訪日外客数の増加が予想される中、この大きなビジネスチャンスに対して各飲食店はどのような“マル秘テクニック”を編み出すのか。今後の展開にも期待したいと思います。