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D2Cブランドのチャネル展開。カギは顧客への「おもてなし」と「伝え続けること」

2022年
明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします

noteではこれまでにも何度かD2C(Direct to Consumer)を話題に挙げてきましたが、今回は小売業のDXに関する有識者である郡司昇氏に、D2Cブランドにおける顧客接点チャネルの使い方や、ポップアップストアを展開する時のポイントなどをお聞きしてみました。

D2Cとメーカ直販の違い

――D2Cのことを色々とリサーチしていると、結局D2Cの定義ってなんだろう?と感じることがあります。例えば、メーカー直販もD2Cになるのでしょうか?

郡司氏:Direct to Consumerを言葉どおりの日本語にすると、「メーカーが直接消費者と取引を行う」というビジネスですよね。言葉としては、メーカーが流通を通さないで消費者に直接売る「メーカー直販」とすごく似ているんです。

でも何が違うのかというと、やっぱりD2Cは「作り手と顧客が直接接点を持つ」という部分が主目的なので、ブランドをコントロールしやすいのです。一方、メーカー直販は小売を介した販売も以前から行なっているので、完全にブランドをコントロールすることはできません。しかも、小売経由のほうが流通量は多いですから、直販で小売経由より安く売ると小売店の商品棚から外されてしまうかもしれません。だから、メーカー直販はどこよりも高く売らないといけないんです。

それでもメーカー直販をやるメリットとしては、中間流通を省くことで利益を増やせることはもちろんそうなのですが、消費者と直接つながることでデータを取れることではないでしょうか。小売を介して販売すると、消費者が何を望んでいるのかが見えにくくなります。例えば、「この洗濯機の扉は開けにくい」「音が気になる」「搬入ができない」など、どこに不満や悩みがあるのかを直接聞くことで、製品改良に生かすことができるのです。

D2Cも当然、ユーザーから直接フィードバックをもらって製品改良に生かすことができます。ただ、大手の流通チャネルを持っていないので、多くの人に認知してもらうことがとても大変です。だからこそ、ファンと直接つながっているメリットを生かして顧客接点で交流できるSNS(TwitterやInstagramなど)と相性が良いと思いますし、そういったチャネルが重要になってきますよね。

――D2Cブランドも販路拡大のためにチャネルを拡げたくなると思いますが、それはあまり良くないことなのでしょうか?

郡司氏:例えば、一部の商品だけ出品して戦略的に認知を拡げるのはアリかもしれないですね。ただ、ほとんどの商品を出してしまうと、それはもうD2Cじゃなくなっちゃうんですよね。ブランドをコントロールしようと思ったら売る商品を絞る必要があります。Appleもチャネルは拡げつつも、家電量販店で独自の売り場を作ったり、流通量を減らすなどしてうまくコントロールしていますよね。

D2Cは小売の場に流すという考えではなく、直接売るという考え方なので、コミュニケーションをインタラクティブに行いながら商流・物流・情報流すべてが直接つながります。その中で小売のチャネルにちょっと流しましょうという話が副の扱いのうちはいいですが、小売のチャネルが主になってくるとメーカー直販と変わらなくなってしまいます。そんなイメージですね。

D2Cの実店舗の役割は、認知と選好性を高めること

――なるほど、そうすると小売チャネルは集客のために活用する感じでしょうか?

郡司氏:集客というよりは、一つは新規顧客の認知を高めること。もう一つが、Preference(選好性)を高めることですね。つまり、複数のブランドがある中で選ばれやすくなる状態を作ることです。まずは認知されなければ選好性も得られないので、そのための手段として実店舗を展開する。その上で、選好性を高めるためには特別な体験を提供する必要があります。どんなに良さそうなブランドだと思っても、店舗での体験がガッカリだとブランドのファンになることはないでしょう。

――認知を高めるにはポップアップストアも有効でしょうか?店頭での体験価値を高めるために接客も重要になりそうですね。

郡司氏:もちろんです。最近は日本でもD2Cブランドがポップアップストアを展開するケースが徐々に増えています。ポップアップストアを自社運営する一番の成功例は純粋なD2CではありませんがAppleですよね。ウェブではできない究極の体験を提供していますから。あのレベルまで到達するのは非常に難しいのですが、少なくともD2Cブランドにとってポップアップストアが重要なチャネルになることは間違いありません。やはりウェブで広告を展開しても、聞いたことがないブランドの商品をいきなりウェブで購入することに抵抗がある人はまだ多いので、認知を広げる施策が必要になります。

これはD2Cブランド以外にも言えることですが、ポップアップストアを展開する際に欠かせないのが、「商品知識のある接客」だと思っています。よくありがちなのが、期間限定のポップアップストアでスポット採用したアルバイトに接客を任せてしまうケース。これだと商品理解が十分に行き届かず、お客さんからの質問に的確に答えたり、商品の魅力を正しく伝えたりすることができません。接客スタッフが不在で商品とタブレットを並べているだけのポップアップストアもたまにありますが、よほど触るだけで魅力が伝わる画期的な商品でなければ難しいのではないでしょうか。

例えばb8taの場合、取り扱う商品に関する知識を、店舗スタッフに対してかなり丁寧に教えていますね。だからこそ、お客さんからのどんな質問にも回答できますし、お客さんからのフィードバックをブランド側に伝えることもできる、そういうやり方をしています。

本来D2C企業が自社で店員を用意できるのがベストなんです。でも、そうでない場合でも、実店舗でタッチポイントを持つ時はb8taのようにお客さんをおもてなしする思想をもって行うことが一番大事なんだと思いますね。ECサイトを紹介することはそのあとでよいのです。

――海外では、既存の業界に変革をもたらすようなD2Cブランドが出てきていますが、日本でも同じような現象は起こるのでしょうか?

郡司氏:海外のD2Cブランドの特徴の一つに、Z世代をターゲットにした戦略を打ち出している点が挙げられます。しかし、日本は海外に比べるとZ世代の母数も可処分所得も多くないので、マーケット自体が小さいという課題があります。

――例えば高齢者など、母数も可処分所得も多いターゲット層にD2Cを展開することも可能ですか?

郡司氏:今後も超高齢化社会が続くので、可能性はあると思います。ただ、ジェネレーションZ世代が好むD2Cブランドを知ったとしてもいきなり購入する層ではないので、いかに信頼性を獲得できるかが非常に重要になると思います。それから、コミュニケーションの質を高めることはもちろんですが、デザイン等が気に入って購入しても質が良くなくてリピートしないということもありますので、プロダクトの質も重要ですね。

D2CブランドAllbirdsが、朝のラジオ番組で情報発信を続ける理由

郡司氏:私は車で移動中によくラジオを聞くのですが、AllbirdsというアメリカのD2Cシューズブランドが、朝のラジオ番組のスポンサーを務めているんです。そこに呼ばれるゲストは、環境関係の有識者やスタートアップの方など、朝のラジオを聴く層にマッチしているとはあまり思えません。なぜ、アメリカのD2Cブランドが、わざわざ日本の朝のラジオで番組を流しているのだろう?と、ずっと疑問に思っていました。

ところが、聞いているうちに気が付いたんです。毎日ゲストが変わって環境について話をしている人ばかりが出てくると、SDGsに興味がある人たちが自然と集まってくると。そうすると、この番組は環境問題や社会問題に興味がある人ならずっと聞き続けるだろうし、聞き続ければAllbirdsというブランドを好意的に思うようになると感じたんですね。

そして、その人たちに対してAllbirdsは決して個々の商品宣伝をせず、あくまでも番組のスポンサーであることを伝えているだけ。そうやって、ラジオというメディアをうまく使うことによって、ある意味、聴講者を選んでいるんです。誰にでも、一人でも多く聞いてもらうことを目指すのではなく、あくまでも環境に興味がある人だけに聞いてもらうことで、ファンと深くつながり続けることができる。そうすると、自分の靴が古くなったタイミングで、またAllbirdsのウェブサイトを訪れたりするのでしょうね。

――なるほど、まさにブランド形成ですね。

郡司氏:そうですね、自分たちのブランドのファンに、「環境に対してこういう風に考えている人たちがいるんだよね」というメッセージを伝え続ける。繰り返し伝え続けることで、ブランドイメージを作っているのです。

――チャネルの使い方はデジタルだけではなく、ラジオなど含めてさまざまなメディアをうまく使う事によって、ブランドのメッセージを正しく伝え、消費者とつながり続けることが大事なのですね。貴重なお話をありがとうございました。

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【プロフィール】
郡司 昇(ぐんじ のぼる)
店舗のICT活用研究所 代表

ドラッグストア大手ココカラファインでEC事業会社社長として事業黒字化の後、全社マーケティング戦略を策定。マーケティングとECの責任者兼任。現職は小売業のデジタルトランスフォーメーションにおける小売業、ベンダー、顧客の三方良しを支援するコンサルタント。新著に『小売業の本質: 小売業5.0