幽玄なる映画体験、92分間の”時間旅行”に酔え
【『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』/デヴィッド・ロウリー監督】
「僕は、死んだ。でも、ここにいる。」
『ルーム』、『ムーンライト』、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』、そして『アンダー・ザ・シルバーレイク』。
次から次へと話題作の製作・配給を手掛けてきた新興のインディペンデント映画会社「A24」。
設立からたった数年で、映画界全体への大きな影響力を持つに至った同社、その次なる一手は、時を彷徨う幽霊の物語だった。
今作の原題の冠詞は「THE」ではなく「A」であり、登場人物たちには名前がない。
また、1.33:1のスタンダードサイズに切り取られた画面は、さらに四隅が丸く縁取られており、古典的なサイレント映画を彷彿とさせる。
そう、この静謐なポスト・ホラー映画は、いついかなる時代においても、普遍的なメッセージを放ち続ける「時間についての寓話」だ。
既存のホラー映画とは異なり、今作の幽霊は、懐かしさと親密さを感じさせる佇まいであり、そして、「時間」を超越した存在として描かれている。
今作は、等身大のラブストーリーとして幕を開けながら、しかし気づけば、壮大なスケールの世界観に導かれ、時を彷徨うロードムービーが展開していく。
想像を絶するほどの深淵さを秘めるこの物語は、あらゆる宗教や思想の壁を無化して、観る者全ての死生観、そして歴史観さえも覆してしまう。
過去を顧みること、未来を想像すること。その二つを等号で結ぶ視点を通して、たった92分の上映時間の中に「永遠」(および、それにまつわる「諦念」)を描き出す。
そのあまりにも美しいストーリーテリングに、ただただ圧倒された。
地縛霊、三途の河、成仏、諸行無常といった概念や価値観を想起させる数々の演出は、宗教への馴染みの薄い日本人にとっても受け入れやすいものだろう。
魂はいつまでも在り続けるとして、それでは生と死の本当の境目はどこにあるのか、いや、それは"いつ"訪れるのだろうか。
いつか全てが終わるとして、それでは僕たちの生前、そして、死後の営みに何の意味があるのだろうか。
今作は、そう問いかける。
どこまでも真摯に、そして恐れることなく「時間」と向き合うことで生まれた、生と死を巡るゴースト・ファンタジー。
あえて言おう、これほどまでに上質な「SF映画」は、近年において稀であるように思う。
極限まで台詞を削ることで、往年のサイレント映画のような深い味わいを獲得した今作だが、そのテーマを饒舌に代弁するダニエル・ハートの音楽、特に、劇中で重要な役割を担う楽曲"I Get Overwhelmed"も本当に素晴らしい。
※本記事は、2018年11月18日に「tsuyopongram」に掲載された記事を転載したものです。
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