ポストEDM時代の覇者 ザ・チェインスモーカーズに、「ロック」の本質を見る
【6/7(木) ザ・チェインスモーカーズ @ 幕張メッセ】
踊りながら、笑いながら、飛び跳ねながら、それでも同時に涙が出るような、
楽しくて、興奮して、ハイになって、それでも同時に、切ない気持ちで胸がいっぱいになるような、
一言でまとめてしまえば、途方もなくエモーショナルな時間だった。
EDMのアクトを観て、こんな気持ちになったのは初めてだ。
喜怒哀楽の感情の全てを余すことなくすくい、最大限に増幅させて、大きな音で「世界」と共有する。他の誰でもない「あなた」にとっての心の声の代弁者として、言葉を綴り、歌い、叫ぶ。
これまでロックバンドが担ってきたその役割を、2018年の音楽シーンにおいては、ザ・チェインスモーカーズの2人が堂々と引き受けている。
その事実に、ただただ感動した。
全ての人を優しく包み込むような美しいメロディ、ナイーブで内省的な歌詞、「世界」に対する批評的なスタンスと鋭いメッセージ。
そして、情緒溢れる生演奏と生歌。
僕が会場で感じたのは、まさにロックバンドのライブを観ることで得られるカタルシスと同じものだった。
"Closer"、"Don't Let Me Down"、"Paris"といった世界的ヒットチューンを、一切出し惜しみすることなく放ち続ける、まるで全編クライマックスのような90分。
あえて一つハイライトを挙げるなら、僕はコールドプレイとの共作曲である"Something Just Like This"を選ぶ。
大胆なセルフアレンジを施したこの曲を、自らマイクを手に取って真摯に歌うその姿に、とても胸が熱くなった。
昨年、コールドプレイの東京ドーム公演で観た時とは、全く異なる種類の興奮を覚えた。
何度でも言うが、とにかくエモーショナルだ。そしてそれこそが、彼らがEDMの枠組みを超えて、全世界のポップ・シーンで共感を得ている最大の理由だと思う。
今、世界の音楽シーンでは、「空前のEDMブームは去った」と言われている。
とはいえ、世界中のフェスで最も猛威を振るっているジャンルはEDMであることに変わりはない。この怒涛の勢いはしばらく止まることはないだろう。
あえて言い換えれば、EDMは今、「細分化/多様化」の道を進んでいる、ということになる。
エレクトロ・ハウスに始まり、テクノやトランス、ダブステップからトラップまで。
それはつまり、"エレクトロニック・ダンス・ミュージック"という、身も蓋もない総称を与えられながらも、無数のダンス・ミュージックの「交差点」として機能を果たす過程で、EDMというジャンルそのものが成熟していったことを意味する。
そんな「ポストEDM」の時代に、ザ・チェインスモーカーズだけが、既存の枠組みを超えて、世界のポップ・シーンの歴史を塗り替えることができた。
今回の来日公演を観て、その理由を体感できた気がした。
※本記事は、2018年6月8日に「tsuyopongram」に掲載された記事を転載したものです。