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さあ、「絶望」と「希望」を繋げ。

【BUMP OF CHICKEN/『aurora arc』】

あまりにも不思議で仕方がない。

この作品に収められた楽曲は全14曲。そのうちの12曲は、既にリリース済み、もしくは一部が公開されていた楽曲だ。

前作『Butterflies』のリリースから今日に至るまでの3年半の間に、テレビドラマ、映画、CMを通して、僕たちは、そのBUMPの新曲に慣れ親しんできた。

しかし、日常に優しく溶け込んでいるはずの楽曲たちが、『aurora arc』というアルバムタイトルのもとに再び編まれた時、全く新しい輝きを放つ。

そして、一つ一つの宝石のような音と言葉が、未知で壮大な物語を紡ぎ出していく。

そう、藤原基央が『aurora arc』という言葉を見つけ出した時、この3年半のドキュメントが、BUMP OF CHICKENの新たな作品へと生まれ変わったのだ。いつだって彼らの新作は、そんな奇跡のような過程を経て生まれてきたが、やはり、何度でも驚かされてしまう。

昨今の音楽シーンにおける「アルバム」の意義を、いや、僕たちと「音楽」との向き合い方を、この新しい時代において再定義してしまったと言ってもいい。あまりにも鮮烈な音楽体験が、ここにある。


まず、サウンド面について。

今作の14曲において、BUMPの4人の音楽的探究心が鮮やかに爆発している。

透徹で流麗なイントロ曲"aurora arc"で幕を開けたかと思いきや、"月虹"のサザンロック調のコードバッキングが、一気にスリリングな世界へと誘う。そして、広大なスケール感を誇るスタジアム・ポップ"Aurora"へと続いていく。

冒頭のたった3曲で、既にこの密度/濃度だ。こんなにも味わい深い音楽体験が、全編にわたって届けられるのだから凄い。

軽快なリズム、晴れやかなバイブス、そして、圧倒的な未知性を放つグルーヴ。"アンサー"や"新世界"、"記念撮影"、それら全てが、BUMP OF CHICKENの新境地を果敢に切り開いている。


そして言うまでもなく、藤原基央の紡ぐ哲学、つまり、BUMP OF CHICKENが20年以上にわたって伝え続けてきたメッセージも、全く色褪せてはいない。

《いつかその痛みが答えと出会えたら/落ちた涙の帰る家を見つけたら/宇宙ごと抱きしめて眠れるんだ/覚えているでしょう/ここに導いた  メロディーを》("月虹")
《溜め息にもなれなかった  名前さえ持たない思いが/心の一番奥の方  爪を立てて  堪えていたんだ/触れて確かめられたら  形と音が分かるよ/伝えたい言葉はいつだって  そうやって見つけてきた》("Aurora")

生きること。

それは、「絶望」と向き合い続けること。

そして、何度でも「希望」と出会うこと。

僕たちはそうやって、もう戻れない「過去」を想い、不確かな「未来」を信じながら、かけがえのない「今」を紡いできた。いや、紡いでいくんだ。

藤原基央の願い、祈り、覚悟は、《見えないモノを見ようとして/望遠鏡を覗き込んだ》と歌ったあの日から、決して変わっていない。


《迷子のままでも大丈夫  僕らはどこへでもいけると思う/君は笑っていた  僕だってそうだった  終わる魔法の外に向けて/今僕がいる未来に向けて》("記念撮影")
《ここはどこなんだろうね  どこに行くんだろうね  誰一人  わかっていないけど/側にいる事を選んで  今側にいるから  迷子じゃないんだ》("リボン")
《絶望  希望/羽根は折れないぜ  もともと付いてもいないぜ/いこう  いこうよ》("望遠のマーチ")

テレビCMを通して、幾度となく聴いてきた曲たちも、アルバムの中に位置付けられることで、内包されたメッセージがより鋭く光る。


そして、アルバムの最後に、藤原基央は、全身全霊の限りを尽くして、こう叫ぶ。

《お互いに  あの頃と違っていても  必ず探し出せる  僕らには関係ない事/飛んでいけ  君の空まで  生まれた全ての力で輝け》("流れ星の正体")

ファンタジーとリアルが互いに手を取り合いながら、この世界に生きることの意義、その一つの結論へと僕たちを力強く導くこの曲に、僕は強く心を打たれた。

藤原基央の「確信」は、作品を重ねるごとに、その深度と輝度を増している。

だからこそ、最新作にして最高傑作が生まれたんだ。

一つ一つの宝石のような楽曲が、あまりにも美しく結実した『aurora arc』を、僕は、絶大な自信をもってそう評したい。



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松本 侃士
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