ジャケ買いを狙っています
いよいよ約二週間後に迫ってきた、文学フリマ東京35。
来たるべき11月20日(日)に備えて、ちびりちびりと準備を進めている。
前回は目次紹介をしたので、今日は装幀を担当してくれた編屋さつきさんを紹介したい。
前著『春夏秋冬、ビール日和』でも、その才能を遺憾なく発揮してくれた彼女。
この表紙のお部屋、実は細部まで私の部屋そっくりで。
その再現度の高さは、埼玉シックになるたびに表紙を眺めて「ああ、ゴーヤがいたなぁ、ベランダでビール飲んだなぁ」と懐かしさに目が潤んでしまうほど。
大好きなワンルームを去って以降は、もはやこの表紙が心の故郷となっている。
さつきさんは今回の新刊『「お邪魔します」が「ただいま」になった日』では、さらに違った作風の素敵な作品を寄せてくれた。
今回は彼女のすごさを一緒に味わってもらうべく、『おじゃただ』の表紙が誕生するまでを時系列に沿ってご紹介したい。
9月17日(土) 打ち合わせ
だいたいの完成原稿を持ってランチへ。
カルボナーラをつつきながら近況報告に花を咲かせ(私たちはカルボナーラが大好きなのだ)、コーヒーを飲みながら「タイトル悩んでいるのよね~。とりあえず構成としては彼氏との同棲に向かってこんなふうに暮らしてきたよって話なんだけど……」と新刊の話をしているうちにふと、『「お邪魔します」が「ただいま」になった日』ってぴったりじゃない?とひらめき、タイトル決定。
その前日には、こんなに悩んでいたのに。
「そしたら漫画風の表紙にして、「お邪魔します」と「ただいま」を吹きだしに入れるような感じはどうですか?」とさつきさん。
漫画っぽい感じって、有川浩の『キケン』みたいな?
そうですそうです!
えー、おもしろそう!
いつもと違うタッチに挑戦できそうで楽しみですー♪
軽やかに話しながら、その場でササッと鉛筆でラフが描き出される。
そんな姿に刺激を受けて、「やっぱりこの文章は削って、こっちを入れようかな」と原稿もさらに完成に近づいて。
ちなみにYou tubeやTwitterのスペースなどで音声配信をしているさつきさん、普段の地声からマジで「編屋さつき」。
とってもかわいいお声なので、ぜひこちらからお聞きいただきたい。
ていうか、まばゆい絵心とセンスを持ってて声もかわいくっておしゃべりもうまいって、どういうことなの?
10月6日(木) ラフ、出る
描くのも読むのも早いさつきさん。
全編の原稿(6万字くらい)を読んでくれたうえ、それを踏まえてラフを出してくれた。
打ち合わせ中には「漫画風にしようか」と言っていたけど、「読んでいたら絵本風の方がしっくりくるかも」とのこと。
え、アイデア界の千手観音でいらっしゃいます?
どのバージョンも心惹かれるけれど、とりあえず「オマール海老に乗ったつるさんが移動している」が気になりすぎる。
オマール海老って、乗り物にもなるんだ。
亀に乗るとか竜にまたがるとか、そういう昔話っぽさを感じる。
オマール婚をかました者としては「ぜひこれで!」と決めたかったものの、タイトルと併せると2番目の「彼氏目線で扉の向こうにエッセイのモチーフが」っていう方がいいような気がする。
今回の主役は、たぶん部屋だし。
そんなことをお返事した、数日後。
10月11日(火) さらに詳細なラフ、出る
ねえ、早すぎない?ちゃんと寝てる?
色を置いたイメージと、詳細なラフを送ってくれたさつきさん。
待って、待ってねえ。
好きなものにぎっしり囲まれているこの感じ、最高すぎるんですけど〜〜〜!!
炒り豆くんかわいい〜〜〜!!
残念ながらその後「ルサンチマンとヘクソカズラ」は削ることに。
なぜなら、まあまあ夫への悪口と取れる表現があるからだ。
最後まで読めば別にそこまでひどい終わり方はしていないものの、一応ね、今回のコンセプト「引き出物感」ですからね……。
夫の両親の目に入る可能性があると思うと、やっぱりちょっと過激な表現は避けておきたくなってしまって。
そんなわけで表紙のへクソカズラも退場してもらうことになった。
「ヘクソカズラを削った部分には、時計を入れるのはどうでしょう?」とさつきさん。
「終わり方といい、全体的に時系列に沿ってお話も進んでいたりするので。もしよければ、なにか思い入れのある時間に針を置こうと思うので、時間を教えてください♪」
思い入れのある時間かぁ……。
パッと浮かんだのは、20時だった。
「よおっしゃ書くかー!」と、るんるんで文章を書き始める時間だから。
金曜の20時ごろが、一週間のなかで一番好きだ。
さつきさんから「その時間に書かれてるんですね!私もです!」とお返事がきて、同志よ……!!と心の中で熱い抱擁を交わした。
10月15日(土) 表紙がカラーになる
悩みに悩んだ表紙のカラーも若竹色に決まり、できたのがこちら。
すっごい、すっごい華やかじゃないです?
そしてその後、色の調整やロゴ、著者名の追加をしてもらったのがこちら。
こまごましたイラストのかわいさや芸の細かさにも大感激だけれど、特にご覧いただきたいのがロゴ。
おめでたい感じ満載!!!
すごい、レッツ結婚!って感じ!!!(頭悪そうな感想)
パッと見て「やだー!素敵~!」とはしゃいだあと、「鶴っぽい……!」「ほんとだ、末広がりになってる……!」「これが結婚指輪……!」「花火上がっとる……!」と一つひとつ照らし合わせながら見ると、そのこだわりっぷりにさらに感動してしまって。
このぎゅうぎゅうに詰め込まれた祝福感、のれんにして玄関に飾っておきたいレベルなんですけど。
ていうか本棚に入れておくだけでめちゃくちゃ縁起よさそうだから、私の文章読んでない人も絶対ジャケ買いしてくれそう。
そんなお礼を送ったら、彼女の返信に泣かされた。
そう。昨年の文学フリマで、私のことを知らない人が「この表紙めっちゃいい!」とサクッと買っていってくれたことがあって。
それがもう、とってもとっても嬉しかったのだ。
でもあまりに嬉しかったのと、突然声をかけられた驚きで「あうっ…アリガトゴザイマッス…」みたいな挙動不審な対応をしてしまった。
読者を増やすって、難しい。
私の拠点はnoteなので、本を買ってくれる人の大半もnoteでつながっている人だ。
時折Twitter経由で見つけてくれた人や、noteで仲よくしている人の友だちが「○○さんに勧められたので」と注文をくれたり、私のペンネームを知っている家族や友人が買ってくれることもある。
これらは本当にありがたいことである。
でも、欲を言えばさらに広まりたい。
文学フリマみたいなだだっ広いところにたくさんの作品がずらっと並んでいるところで、私のことを知らない人にも、目に留めてもらいたい。
表紙のイラストという形でそのきっかけを作ってくれた編屋さつきさんには、もうほんとにもう、宝くじで5億当たったら4億贈呈したいくらいに感謝している。マジでありがとう。
彼女の工夫いっぱい、幸せいっぱいの表紙はきっと、文フリでさらにたくさんの出会いをもたらしてくれることだろう。
当日までに、ジャケ買いしてもらったときの爽やかな対応を練習しておかなくっちゃ。