文学フリマという名の同窓会場
お顔は知らないけれど文章は知っている人と、初めて会う日。
何度か会っている人の、張り切っている姿を応援する日。
誰かの熱い思いがこもった、未知の本と出会える日。
文学フリマ東京に遊びに行った5月19日は、そんな、心躍りっぱなしの一日だった。
東京は今回から入場料が1000円。
多少お客さんが少なくなっていたら回りやすくてありがたいなぁ……。
よこしまな期待を抱きながらモノレールに揺られて会場に着くと、流通センターをぐるりと囲むような大行列ができていた。
「有料だから空いてると思ったのに、人多すぎじゃね?」と私の少し前を歩いていた男性二人組が話している。みんなたぶん同じことを思いながら来て、いま同じように1000円の壁をものともしない本好きの数に衝撃を受けているのだろう。
列に並ぶこと約30分、まずは第二展示場に足を踏み入れた。
最初に向かったのは、ウミネコ制作委員会。
ぼんやりRADIOさん、穂音さんが店頭に立って、39名の童話作家と27名の挿絵画家が集結した大著『ウミネコ童話集(1)』や『ウミネコmini文庫』を販売している。
わっさわっさ人がうごめいているなかで、知っている顔を見つけたときの安心感たるや!
さらにお客さん側から見て右手に小説を書き、ライターとしても大活躍中のさわきゆりさん、左手には装幀の素敵な本をずらりと並べた吉穂みらいさんと海人さんが。
ぎゅっと並んだ3ブースはとにかく華やか。
雰囲気は三種三様。
「やっはー!も~来ていただいちゃってありがとうございま、いや、ごじゃいますぅ」と眉を下げるぼんラジさん、「お久しぶりぃ~!」と手を振る穂音さん、「来てくれてありがとー!」とアイドルみたいな元気を振りまくゆりさんに、お店と見まごう作品カタログを携えてスマートにご本を紹介してくれる吉穂みらいさん。
そんな3ブースに、続々とnoterさんが集まってくる。
作品を眺めていると、ヱリさんやramさん&志麻さん母娘の姿も。
「この表紙かわいいですよね!」「私もこの本気になってました!」等々ひとしきりしゃべりながら狙っていた『ウミネコ童話集(1)』『ウミネコmini文庫 花屋の葉子さんとシークレットガーデン』、ゆりさんの『ちょっとした短編集』、吉穂みらいさんの『白熊と光』を購入し、各々のお買い物へ散る。
ぼんラジさんのレポはこちら。
さわきゆりさんのレポはこちら。
吉穂みらいさんのレポはこちら。
次に向かったのは、とき子さんイチオシの宮先雅之さんのブース。
InstagramやXに絵と文章をあげていらっしゃる方なのだけれど、静かで独特な世界観の絵がとても好きで。
とき子さんのお使いと自分の分を合わせて『アンセルム叔父さんの遺品』を2冊買い、とき子さん分はカバさん、私はプレイリードッグの缶バッチを購入。
どのバッチもかわいくて決めかねていたら隣で作品を見ていた宮先さんの熱烈なファンらしき猫耳をお召しの女性に「超!超素敵ですよね!」と話しかけられたので、「超!超素敵だと思います!」と渾身の力で打ち返す。
とりあえず下調べしておいた本を先に入手しておこうと第一展示場に移ると、人のうねりはさらに大きくて。
まるで、水族館の大きな水槽のなかで銀色の渦を巻くイワシの群れみたいだった。
流れに逆らおうとしようものなら、大顰蹙間違いなし。イワシに生まれなかったことを、心から感謝した。こんな渦に毎日巻き込まれていたらやってられない。
おとなしく流れに乗って奥へ奥へと流されていき、這う這うの体でたどり着いたのがよさくさんのブース。
日頃noteに書いているエッセイは文がなめらかであたたかく、どこかクスっと笑ってしまう。
そんな彼のファーストエッセイ集『はじめての北国暮らしは掘りごたつ付きワンルーム』は、19作品入り500円という破格のお値段。
ブースには「転勤族×北国エッセイ」というコンセプトがでかでかと打ち出されていて、よさくさんを知らない人でも転勤族の人や北国に思い入れのある人が「おっ!」と引っ掛かりそうな工夫がされている。さすが営業。現に私がブースにお邪魔する直前にいた女性も、興味深そうにポスターを読んでいる。
よさくさんがめちゃくちゃキラキラしたお顔で「るるるさんのお陰で文フリに立てていると言っても過言ではないです」と言ってくださったのだけど、「過言です」と即答してしまう。
だって、過言なんだもの!!!
この世の人を「文フリに出る人」と「文フリに出ない人」に分けたら、絶対よさくさん文フリに出るタイプじゃん!!!
私が文フリへの背中を押せたならこれほど嬉しいことはないけれど、きっと遅かれ早かれあなたは文フリに呼ばれていたよ……と思っています。
よさくさんの文フリレポはこちら。
次いで向かったのは、ほんのひとときさんのブース。
noteのコンテスト「わたしの旅行記」で賞をいただいたご縁から記事を拝読していたのだけど、今回ご出店されると聞いてぜひ伺わねばと思っていたのだ。
狙っていたのはさくら剛先生の書き下ろしエッセイ『臆病者が旅を迎える恐怖』と、土井善晴先生の『おいしいもんには理由がある』。
実は、そろそろちゃんと土井先生の本を読まなくてはと少し前から思っていたところだったのだ。
ほんのひとときさんの作品一覧を眺めて、「土井先生のサイン本、獲りにいくわ!」と家で意気込んでいたら、夫にどんな人なのかと聞かれた。
「なんか味噌汁と漬物でハッピーになれるタイプの人だった気がする」と雑すぎるうえにたぶん間違った知識で答えると、彼は「現代版宮沢賢治か」と『雨ニモマケズ』的な理解をしたらしかった。
ベストセラー『一汁一菜でよいという提案』のタイトルのインパクトがでかすぎるのだ。
いや、タイトルのせいにしてはいけない。
ほんのひとときさんのブースで名乗ると、「るるさん!僕が飯尾です!」と目の前の男性がシュッと挙手した。
飯尾さんは、解脱済みの僧侶みたいに澄んだ目をきらめかせた方だった。とはいえ初対面で「お目々が綺麗ですね」と伝えるのは憚られたので、その感想はそっと心にしまう。
こんな方に「最後の晩餐は、願わくばウニ丼」を選んでいただいたのだと思うと、しみじみと手を合わせたくなった。
私がお邪魔したときには三人で売り子に立たれていたのだけれど、「特典のステッカーです!」「あ、エコバッグもよかったら」とそれぞれから怒涛の勢いでいろいろいただいてしまい、わらしべ長者のような気持ちでブースをあとにした。
次に向かったのは、おだんごさんがnote友だちのあやしもさん、くまさんと出店している「おだんごや」。
ブースに近づいていくとお揃いの三角巾にエプロンを巻いた、三人の女性が目に入る。おだんごさん、あやしもさん、くまさんだろう。
やっと会えた!
おだんごさんはもう本当に、アイコンの雰囲気のまんま、文章のまんまの方だった。
ひっきりなしに訪れるお客さんを息の合ったチームワークでおもてなしするお三方は、初出店にしてすでに集大成の趣き。
ブースを眺めて「素敵なブースですねぇ!」と言うと、「これは着ぐるみさんが作ってくれたお人形で、これは微熱さんのポストカードで、これはくまさんのくじで……」と次々に協力者の名前が挙がる。なんたる人徳!
わいわいはしゃいでいたら、隣にいたはずのいぬいゆうたさんが桃のようにいずこへと流されていった。
おだんごさんのレポはこちら。
その後は文フリ広島で完売だった福本カズヤさんの既刊『駄文多分』と新刊の『ごきげんな魂』や、前著がおもしろすぎたしりひとみさんの新刊『異常係長日記』や、気になっていた岡田悠さんの『はこんでころぶ』、早乙女ぐりこさんの『早稲女×三十歳』を無事に入手。
出店者として参加しているときには「お返しに遊びにいきますね!」と憧れの人が気を使ってくださる(しかも本当に来てくださるうえに買ってくださる人もいる)のがとても申し訳なくて、「出店者」のシールがかすむような速度で買って身をひるがえすようにして立ち去ってしまうのだけど。
お客さんとして参加した今回は、自分のブースがないから安心だ。堂々とサインをねだり、ほくほくと去る。
買い忘れに気づいて第二会場に戻り、日々図案室さんのブースへ。見たかった本は完売してしまっていたので、ポストカードを購入。
そうして目当ての作品をざっと手に入れたところで人の流れに流されるままに会場の外に出て見本誌コーナーを眺め、休憩スペースへ向かった。
エコバッグに無造作に放り込んでしまった本たちを、丁寧に詰めなおしたかったのだ。
テーブルに買った本をすべて出して向きを揃えて入れなおしていたら、お隣のテーブルでまったく同じことをしている人がいた。ちらりと横目で眺めて、ぎょっと手が止まる。
ウミネコと、さわきゆりさんの『パラダイス』って……あれ?noterさん?
気づいたら「もしかしてnoteの方ですか」と声をかけていた。
もはや友だちの友だちは友だちみたいなテンション。文フリ以外でやってはいけない。
「え……?」と戸惑った様子でこちらを向いた顔を見て軽くのけぞる。
小説の名手として知られるnoterの、白鉛筆さんだった。
「買ってた本でばれるって、なんだか恥ずかしいですねぇ」と口元を手で押さえて笑う白鉛筆さん。「どなたかnoterさんにお会いしましたか?」と小首をかしげる白鉛筆さん。
かわいい。仕草がいちいちかわいすぎる。
そこから先は、noterさん大集合だった。
「ブルゾンちえみwith B」、あるいは水戸黄門のごとくこーたさん、コッシーさんを引き連れたピリカさんを中心に、次々にnoterさんが集まってくる。
「わぁ、あなたが!」「やっと会えた!」「ほんとに実在してる!」とあちこちで歓声が上がる。
私はキャベツ色のカーディガンをお召しのせやま南天さんに『クリームイエローの海と春キャベツのある家』にサインしていただいたり、ramさんといぬいさんの土偶談義を聞いたり、ミーミーさんに握手をねだったり、月山六太さんの『花屋の葉子さんとシークレットガーデン』にサインをいただいたり、琲音さんになぜかあおさのりをいただいたり、geekさんにコーヒー飴をいただいたり、ビールが足りないと買いに立つ豆千さんを見送ったり、ramさん志麻さんと盛り上がって再びよさくさんのブースに突撃したり、しめじさんとそのご家族の睦まじさに羨望を抱いたり、した。
もう、大同窓会状態である。
誰が来たのか気になる方はピリカさんのすまスパレポートを聴いていただけたら、きっとかなり多くのお声が聴けるはず!
こんな同窓会ができたのは、ひとえに「この人が出るなら会いに行こう」と思わせてくれる出店者さんたちの魅力のおかげだろう。
文章に惹かれて、文章からにじみ出るお人柄に引き寄せられて。
広い広いnoteの世界で、この人たちに出会えてよかった。
そんな思いを抱きしめながら、手渡された本を大事に撫でた。
あらためまして、お会いできたみなさま、ありがとうございました!
ご出店されたみなさま、本当に本当にお疲れさまでした。
ご本、大切に拝読します。