KaoRuさん、日本上陸。
「あららぁ、おめかししとるやん!」
耳で揺れる鶴のイヤリングを目ざとく見つけた夫が、やけに嬉しそうに言う。
今おめかししないで、いつするのだ。
今日はチェコからはるばるいらしたnoterのKaoRu IsjDhaさんと、リアルでお会いする日なんだぞ。
にやにやと耳をつついてくる夫を道案内に、KaoRuさんの泊まるホテルへと向かった8月27日、日曜日。
通り雨がパラついた前日とはうってかわって、すこんとした快晴だった。
ほどなくホテルに着いてLINEをすると、「いま降りるところです」とお返事がきて胸が高鳴る。
あのKaoRuさんに、ついにお会いできる……!
ドキドキ、ドキドキ。
エレベーターがフロントに止まるたびに降りてくる人たちの顔をぬっと覗き込んでは、「あっ、違うわ……」とスッと目線を滑らせた。
無遠慮に覗き込まれたうえに勝手にがっかりされた人たちが、ただただ気の毒である。
そうして二つほどエレベーターを見送ったあと、ついにKaoRuさんが降りてきた。
ウェブ会議で何度か顔を合わせていたから、会うなり「きゃあ、どうも~!」とはしゃぎ合う。
「はじめまして」とも、「ひさしぶり」とも違う、不思議な感覚。
斜め後ろに立つ夫を「夫です!」と紹介すると、「知ってますよぉ、これまで写真とか動画とか見せていただいたし……」とKaoRuさんは笑った。
そうだった。
夫とKaoRuさんも、「はじめまして」とも、「ひさしぶり」とも違う不思議な関係性なんだった。
そんな顔合わせをはたした我々は、東京駅にスーツケースを預けようとロッカーを探すことに。
ところが、どこもかしこも空きなし。
数か所回ってみたものの、軒並み使用中を示す赤いランプが光っていた。
どうしてなの?今日、日曜日だよ?明日からお仕事でしょう?
みんないったい、どこに行っているというんだい……?
ブツクサ文句を言いながら広い駅内を駆けずり回り、目を皿のようにして緑のランプ(空き)を探す。
しばらくして、ようやく夫が地下ロッカーに空きを発見。
でかした!今度コンビニスイーツを奢ってしんぜよう。
スーツケースを収納するという第一関門をなんとかクリアした我々は、地下鉄に乗って高田馬場へ向かうことに。
メトロ乗り放題切符を私が使って、私のPASMOをKaoRuさんに使っていただこうかな。
そんな説明をしてKaoRuさんにPASMOをお渡ししたところ、彼女は切符を入れる穴にPASMOを入れようとして首をかしげていた。
しまった!彼女が日本にいたころにはPASMOはまだ登場していなかったのかも。
ごめんなさいぃぃ!!!
そのカードを、そのコバンザメの小判みたいな青く光っている部分に、かざしてやってください!!
改札から手振り身振りで伝えて事なきを得る。
記事のなかでちょこちょこ「浦島」を自称しているKaoRuさんの、ナチュラルな浦島っぷりを垣間見れてしまってちょっと嬉しい。
部屋に帰る夫と別れて、レストランでランチ。
チェコでの暮らしや普段食べているもの、文学フリマ当日の話……。
あれこれしゃべりながら食べていると、ramさんから「まもなくたんぽぽハウスに着きます」とLINEが鳴った。
実は「KaoRuさんと東京で遊ぶ」と書いたときに、ramさんからKaoRuさんに渡してほしいものがあるとご連絡をいただいたのだ。
せっかくだからお会いしましょうよとお誘いして、ramさんと志麻さんと四人でたんぽぽハウスで待ち合わせることに。
さて、たんぽぽハウスに入ったKaoRuさんは、意外と冷静だった。
むしろほかのメンバー、私とramさんと志麻さんがワイワイと、「これいかがですか?」「こういうのも似合いそう」「私もブラウスほしいんだよね」と棚を囲んではしゃぎまわり、KaoRuさんご自身は後で聞いたところ「チェコ・コルナに換算したらいくらかな……」と考えながら服を見ていたのだそう。
たしかに普段使っている通貨が基準になっていると、「これ安い!」「これは高い!」とパッとは繋がらないかも。
初めての海外旅行でラスベガスに行ったとき、弟や従姉と1ドルショップで大はしゃぎしてまったくいらないものをどっさり買ったことを思い出す。
あのとき私たちは「100円ちょっとでこんな大きなわら人形が買えるなんて!」と「日本円にしていくらなのか」に反応し、「それなら安い!」「お土産に買っていこう!」と買いあさった。
思考回路としてはKaoRuさんと同じはずなのに、私たちは図抜けて浅はかだった。
スーツケースの中で激しく揺られたわら人形は日本に着いたころにはただの大量のわらになっていて、私たちが小判だと信じ込んでいたものが実は木の葉にすぎなかったのだと知ったような、寂寞とした切なさにとらわれた。
ひとしきりたんぽぽハウスを楽しんだあとは、付近のカフェへ。
「これ、ぜひともKaoRuさんにと思って……」
ramさんがうやうやしく取り出したのは、KaoRuさんのために作られた超スペシャルなプレゼント。
もう、これはすごい。本当にすごい。
大阪で実際に見られる人は本当にラッキー。
直接見られない人のために、私は当日めちゃ写真を撮りまくっておきます。
KaoRuさんの故郷の話や、ramさんの器用な作品作りの話、ramさん志麻さんの古墳探訪の話など話は尽きなかったものの、名残惜しくもお別れしてKaoRuさんを我が家へご案内。
小冊子『つるる&とき子のぬか床日和』と、『羽ばたく本棚』の紹介チラシを折ってもらう予定だったのだ。
もくもくと作業しながら、好きなnoterさんの話やnoteを始めたばかりのころの話、もう長いことお酒を飲んでいないんだ(KaoRuさん)、という話で盛り上がる。
noteでフォローし合っている人のなかでは、KaoRuさんは私にとっては相当に長い付き合いになる。
何気なく自分のフォローしている人のリストを開くと、けっこうな数の人がすでにnoteから離れてしまっている。
外出自粛の空気のなかで繋がりを求めた人たちがそれぞれの暮らしに戻っていっただけだと思えば、それはいいことなのだろうし、幸多かれと祈っているけれど。
せっかく一度繋がったご縁がほどけてしまうのは、やっぱり少し寂しい。
KaoRuさんはある日noteにコメントをもらって初めてコメント機能を知り、「こんな機能があったのね!私も使おう!」と私の書いた「大人の証」にコメントをくれたのだという。
そうだったのか。
当時の私は誰かにコメントすることもなく、粛々とスキをつけるだけだったから、読んでくれただけでも十分嬉しいのに、コメントまでくれる人がいるなんて!ととても驚いたことを覚えている。
そしてあのとき始まった交流の数年後に、一緒に文学フリマに出るなんて。
当時は想像もできなかった幸せに、くらくらきてしまう。
長いことお酒断ちをしているKaoRuさん。
たしかにお酒を控えた方が身体にはいいんだろうなぁと思いつつ、そのきっかけを聞くと。
「お酒を飲んで調子に乗ってしまう自分がすごく嫌いで」と、意外な返事が返ってきた。
全然そんなふうには見えないのに。
てっきり鼻血方面の理由かと思っていたら、お酒のテンションかぁ。
たしかにそれは、すごくわかる。
私もどちらかというと飲むと楽しくなってしまって、調子のいいことを言ってしまうタイプである。
翌日何度自己嫌悪に陥っても、もう飲むまいと誓っても、いつしか失態のことなんてケロッと忘れて飲んでしまう。
いつか本格的にお酒を止めようと思ったときには、KaoRuさんの言葉を思い出してお酒から離れようと思う。
そんなこんなで手はテキパキと、口は賑やかに作業していたら、夫が満面の笑みで部屋に入ってきた。
「どうしたの?」と聞くと彼は「楽しそうにお話ししてるなと思って」とにこやかに言い、しばらく私たちの会話に耳を傾けていた。
私の友だちが来たとき、彼は基本的に気配を消している。
今回ももちろん、シレッと現れたり消えたりはしていたものの、KaoRuさんとの会話にすっと入ってくる様子を見て、私は彼の成長に目を見張った。
KaoRuさんはやたらと現れたり消えたりする夫を不審がることもせず、何事もなかったかのように話してくれた。懐が深いわ!
そうして無事に冊子やチラシを折り終えて、私は文学フリマで着るシャツを開いて「わ~!かわいい~!」とはしゃぎ、事前に注文をくれた人たちのお名前を読み上げて「〇〇さんが『ぬか床日和』買ってくれるんですって!ありがたや~!」とはしゃぎ、当日会える予定の人のお名前を挙げてはしゃいだ。
なんだかもう、本当に文化祭みたい。
約2週間後の再会を約束し、新幹線の改札を颯爽とくぐるKaoRuさんを見送って、私は静かに帰路についた。
いよいよ間近に迫ってきた文学フリマ大阪。
いったいどんな一日になるのだろう。
楽しみすぎて、いまからソワソワが止まらない。
【お知らせ】
文学フリマ大阪の当日(9月10日)までに『つるる&とき子のぬか床日和』をご注文orご連絡いただいた希望者の方には、つる・るるる、とき子さん、KaoRuさんがサインさせていただきます。
当日お会いできる方も、ネットショップからご注文いただいた方も、「東京で買うから取り置きしておいて!」という方も。
たぶんこんな機会もうないので……!
ぜひご連絡いただけたら幸いです♪
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