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何はともあれ、たんぽぽハウス

その店の外観は、よく言えば親しみやすく庶民的で、悪く言えば安っぽかった。
けれどそれは、あくまで外から見た話だ。
そのチープな外観をせせら笑っている人たちは、この店のなかに眠る宝を知らない。
いや、いっそ永遠に知らないでくれ、とも思う。

でも……大学一年のころから数えて今年で9年目のファンとなる身としては、ぜひとも知ってほしい。
たんぽぽハウスに、秘められた魅力を。

たんぽぽハウスは東京、千葉合わせて20店舗ほどある、服飾系リサイクルショップだ。
一着の最低価格が105円からという、板チョコでも買うような気軽さで服が買える夢のようなお店である。

友だちと遊ぶ用の、普段着を買う。
芋ほり用に、作業着を買う。
義実家に着ていけそうな、おしゃれ着を買う。
結婚式用の、ワンピースを買う。
イベント用に、派手な服を買う。

私たちは日ごろさまざまなシーンに合わせて、さまざまな服を買う。
普段着はファッションセンターしまむらで、作業着はワークマンで、それから義実家へのおしゃれ着は……と、シーンに合わせて洋服店を変えている人もいるだろう。
ところがどっこい、たんぽぽハウスに行けば、一店舗ですべてが揃う。
しかも、格安で。

先日私は、及川光博氏の今年のツアーに向けて服を買いにたんぽぽハウスへ向かった。
今年のテーマカラーは、イエロー
私服では持っていない色だったからだ。

以下、イエローに戸惑うベイベー&男子のみなさま(一例)。
やっぱり黄色なんて、なかなか持ってないですよね……。


そんなわけで高田馬場店へ行きラックを眺めると、さっそくレトロなボタンの黄色いシャツと格子柄のスカートが目に入った。どちらも315円だった。
試着してサイズをたしかめて、別のラックに移動する。

黄色のシャツと格子柄タイトスカート(各315円)

春物の服と、イベントに着ていけそうな服があったらほしい。モスグリーンのワンピースを見つけた。フリルがかわいい。

ボタンもすごくかわいい(315円)

やだ、その色めっちゃいいじゃん
そろそろレジへと向かおうかと思ったところで、お客さんの一人に話しかけられる。
ありがとう、ございます。これ、ミッチーのライブに着ていくつもりなんです。

スカートとシャツを合わせて見せると、「えー!すごくしっくりくるコーディネートじゃん!天才!?」と大げさに褒められる。
「お姉さんこそ、手に持ってる春物のコートがいい柄ですね」
「嬉しい!これ、わりと高く見えるでしょ?315円なの、ふふっ」

初対面の者同士が、各々のチョイスを褒め合う。

「でね、今日は今着ているシャツに合うようなズボンを探しているんだけど、なんかいいの見かけた?」
そうお姉さんに聞かれた。
「そのシャツだったら、こういう色も合いそうですけど」
「ほんと?試着してくる!」

初対面の者同士が、服をアドバイスしあう。

たんぽぽハウスでは、よくある光景だ。
昔住んでいた西葛西には名物おばちゃんのような人がいて、コーディネートを頼まれたり、「絶対似合うからこれ着といで!」と試着室に押し込まれたり、「ボタンが一個取れてたんだけど、付け替えるなら何色かな?」と尋ねられたりしたものだった。

安い服なら105~315円程度、高い服でも840~1050円程度だから、こちらもあまり気構えずに服を勧められるし、勧められた服を軽いノリで試着できるのがありがたい。

さらにたんぽぽハウスのすごいところは買うだけではなく、売ることもできる点である。
学生のときに気に入っていた服が、社会人になってからちょっと違うなと感じたとき。
似たような服が、複数枚あることに気づいてしまったとき。
以前はぴったりだったはずなのに、サイズが変わってしまったとき。

そんなとき、たんぽぽハウスに服を売りに行く。
しばらく経って町を歩いているときに、おそらく私の売った服を着た人とすれ違うことがある。
そんな着こなし方もあったのか、そんな色と合わせる方法もあったのかと、新発見に驚いたり、手放したことをちょっぴり後悔したり、する。
きっと同じことを、私の服のもとの持ち主もどこかで思っているのだろう。

たんぽぽハウスを介して町の人たちと服をシェアするような、そんなキャッチ&リリースによって、一枚の服はきっと想像以上に長く、そしてたくさんの人から愛されているのかもしれない。

いま私が着ている服は、前はどんな人が着ていたんだろう。
そして、次はどんな人が着るのだろう。
そんなことを想像すると、セーターの袖を通る腕が、ズボンをまたぐ足が、いつもより慎重になる。

そうやって一枚の服に向き合うと、流行を着る意味が遠くなる。
流行を追う人も、流行をつくる人もいるけれど、その後ろからえっちらおっちらついていったり、ついていかなかったりしても、別にいいかという気分になってしまうのである。

どんな季節でも、どんなシーンにも、合う服が待っている場所。
年代を超えて、センスだけでつながれる場所。
歳を取ろうが太ろうが痩せようが、どんな「私」にも似合う服が見つかる場所。
流行り廃りに流されず、純粋に自分に似合う服を探せる場所。
誰ともかぶらない、スペシャルな一着に出会える幻の場所。

これだから、たんぽぽ通いはやめられない。

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