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この新品の本と、そのボロボロの本を交換してくださいって言いたかった、昔の思い出
昔、ボロっボロの本を手に「これほしいほしい」と目を輝かせて見入った時があった
その本は、もう背表紙と本編もべりっとはがれて“本”としてもかろうじてその形をとどめているくらい、ボロボロ
ページをつなぐ糸からページがとれて、紙が“綴じる”ではなく、もはや“挟まって”いる。そんな状態の、本
私は全く同じ本を自前で買って、持っていて、「これ、同じ本だから交換してくれないかな...」と、本気で言い出そうとしていた
しかし、一応図書館の備品だから、あかんかなーと思って、結局そのまま。でもその後もずっと気になっていた
その本は大学の図書館の本で、私は京都の美大へ通っていた時のことである。
後にも先にも、こんなにボロボロの本をほしいと思ったことを、ましてや同じ新品の本を買って交換してほしいなんて思ったのは、きっとこの1冊だけだ
なんでそんなボロっボロの本を(もう本当にボロボロのw)ほしいと思ったのか、気になりますか?
気になりますよね、気になっているであろう、という前提で、お話ししましょう
私が通っていたのはデザイン科。
どのデザイナーの作品が好きかで趣味趣向がわかる。趣味のいい、センスでマウントを取り合うようなw ことはないのだけれど、なんとなく学生間でこいつはできる・できない、みたいなジャッジが飛び交っていたような気もする(若さ)
それぞれ好きなデザイナーは違うけれど、当時のトレンドのような存在はあり、若手デザイナーや、大御所デザイナー、数多くすごい人たちがおりました。
今は誰かな。もう世代間で飛び交う名前も変わっているだろうけれど、変わらず普遍的に尊敬されるデザイナーも数多い。
その一人が、深澤直人さん。
私が尊敬してやまない、デザイナーの一人。
深澤直人さんはプロダクトデザイナーですが、ただ製品をデザインするだけではなく、その物の「間」すらデザインする、デザイナー。
私はそう感じます。
そう、その本は深澤直人さんの本です。
では、なぜそのボロボロになった本を、私はそんなに欲しかったのか。
図書館でその本を手に取って、私は、この本が乱雑に扱われた末に、この姿になったわけではないことがよくわかった。
読まれて、読まれて、読まれて、こうなった。
多くの学生の手に渡り、開かれて、開かれて、開かれて、そうなった。
本体から外れてしまったページの束。
しかしどれも、ピンと張っている。
ページを束ねる糸の跡が残る。
ルーズリーフを何回もめくると、バインダーの喉と穴との間が破れて、ページが外れるのに近い。
この本が大切に読まれて、たくさん読まれたことがわかる。それが、とてつもなくかっこよく見えた。そして同時にとても嬉しかった。新品に近い私の本が急に味気なく、なんだか恥ずかしくもあるような、そんな感覚。
これ、いいな。
めっちゃかっこいい!
それが、そのボロボロの本を心底欲しいと思った理由である。
もう随分前の話。
あの本は、どうなったかな。
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