心抜きをされたきっかけ
私が心を失った一番のきっかけは両親の死だろう。
父はすでに他界していたが、
母が亡くなり、ついに両親が二人ともこの世からいなくなってしまったのだ。
母に病気が見つかってから、たった二か月のことだった。
それだけでも充分ショックな出来事なのに、
母の亡くなる直前に、49歳の妹が、
知り合って間もない10歳上の男性と結婚し、
母が亡くなったと同時に私になんの相談もなく、
実家に住み始めたのだ。
コロナ禍というのを理由に、母も私も、
妹の夫の親戚には誰一人として会ったことがなく、
妹の夫がもともとゴミ屋敷に住んでいたため、
ウチの実家も二人が住み始めたと同時にゴミ屋敷と化した。
物があふれ、壁がまったく見えなくなるほど上まで積み上げてあり、
床には膝の高さまで妹の夫のもので埋め尽くされていた。
足の踏み場がないどころではない。
初めてその惨状を目にした私は本当にショックで、
震える手で持っていたデパスを2、3錠、口のなかに放り込んだ。
当初、泊まる予定で行ったものの、泊まるどころか、
食事をするスペースも全くなかったので、
急遽、予定を変え、自宅へ帰ることにしたのだ。
また、すべてのテーブル、机にも物が溢れんばかりに置いてあり、
素朴な疑問から
「どこで食事してるの?」
と聞いたところ、
「お仏壇の前で体育すわりして食べてる」
…ということだった。
絶望的な気持ちで帰りの電車に乗ったのだが、
それでも妹を思う老婆心からか、長女あるあるなのか、
妹の夫にショートメールで、
「妹の部屋だけでも物をどかしてあげてくれませんか?」
と、送ってしまったのだ。
その時、彼は脅しともとれる、ものすごい反撃を返信してきた。
なんやかんや言っても、こちらは女性だ。
男性から脅しのようなメールが来たら恐怖で何も言い返せなくなる。
そして、さらに悪いことに、このメールが来たあとに
妹から
「お姉ちゃん、〇〇さんに何言ったの?〇〇さん、すごく怒っているよ」と、LINEが来たのだ。
さらに
「お姉ちゃん、自分の心配でもしてなよ!」と。
妹のためを思ってしたことが、妹にまで責められて、
精神が崩壊していくのを感じた。
いつもこんな時、母に言いつけていたが、
その母はもうこの世にいない。
娘と毎年泊まりに行っていた、ばあばの家、
思い出がいっぱいつまった、大切な私の実家は
あの見ず知らずの男に占領されてしまった。
唯一の兄弟である妹も夫の言うままになってしまった。
もはや、私の知っている妹さえもこの世にいない。
「どうしてこんなことに!!」
しかし、精神が崩壊する理由はこれだけではなかったのだ。 つづく