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20240817 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」022 宮沢賢治「セロ弾きのゴーシュ」

 宮沢賢治の作品はどれも素晴らしいのですが、文学史に残る名作といえば「銀河鉄道の夜」。伝統的な日本文学と言っても良い情感あふれる作品は「風の又三郎」。
 でもぼくは「セロ弾きのゴーシュ」が個人的には一番のお気に入りです。

 アニメにもなっていますし、エンターテイメント作品としても構成がしっかりしていて完成されています。
 ぼくが好きな点は、ゴーシュに賢治の人間臭さが現れている点です。

 楽団で一番へたっぴなセロ弾きのゴーシュは指揮者に叱られてばかりです。ゴーシュが叱られる時、他の楽団員は自分の楽譜を確認したり、弦を合わせたりしてゴーシュに気をつかってやります。でもそれがかえって申し訳なく、いたたまれないんですよね。
 ぼくも吹奏楽団の団員だった時、たくさん叱られましたからその気持ちが痛いほど分かるのです。笑
 それで、家に帰って遅くまで練習します。これも楽団員だった人には良く分かるでしょう。一番へたっぴは、とにかく努力するしかないのです。自分に絶望することもしばしばです。
 そこへ、かっこうだの猫だのタヌキだのが現れて、奇妙な注文をする。
 ゴーシュは練習を邪魔されて腹を立てます。それで動物たちに八つ当たりをします。
 猫の舌でマッチをすって、「もう来るなよ、ばか」などと言ったりもします。
 ここが好きなんですね。
 聖人君子のように思われている賢治ですけれども、きっと賢治もゴーシュのように色んな心の葛藤があり、八つ当たりをし、そんな自分が嫌になったりしたことでしょう。

 結局、ゴーシュは動物たちに助けられたことを悟ります。
 動物たちのおかげで演奏が知らない間に上達していたのです。
 自分の力で生きていると思っていたのに、実際は多くのものに助けられていたことに気付くのです。
 人は万物の恵みの中に生かされる。
 これこそ賢治の真骨頂ですね。

 賢治も実際、チェロを練習していたそうです。
 花巻の宮沢賢治博物館には、そのチェロが展示されています。

オリジナルイラスト 「セロ弾きのゴーシュ」
ゴーシュには色んなイメージがありますが、宮沢賢治その人をゴーシュに見立てました。


 

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