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書評 柳田国男 「遠野物語」 イラストエッセイ 「読まずに死ねない本」 031 20241101

 前回、宮本常一さんの「忘れられた日本人」をご紹介しました。今回は、柳田国男の「遠野物語」。この二冊は、民俗学を代表する名著ですけれども、「忘れられた日本人」は昭和60年に書かれたもの。一方の「遠野物語」は明治43年のものです。
 民俗学の功績は、歴史の表舞台である朝廷政治や文化の記録はあまたあれども、普通の庶民が何を信じ、どのような暮らしをしていたのかは顧みられることが少なかった。それを明らかにしたことです。
 「日本」を語る上で、とても重要な視座だと思います。

 「遠野物語」は、岩手県遠野地方の人々の信仰、暮らしを紹介した本です。文語体なので、最初は読みにくく感じるかも知れませんが、すぐに慣れます。急いで読まなくても、ゆっくり、古老の話に耳を傾けるように読み進めてゆくと古の日本にタイムスリップしたような不思議な感覚になります。
 「遠野物語」はこの文体の果たす役割がとても大きいと思います。一言で言えば文学的なのです。日本語がとても美しい。

 内容も面白い。ややこしい歴史学、宗教学、文化人類学などの学問的な解釈などはいっさいなく、昔の普通の日本人が語った内容をそのまま報告しています。
 河童、ざしきわらしなどの妖怪のお話や、神隠しなどの不思議な体験談。一度はどこかで聞いたことがあるようなお話がたくさん紹介されています。アニメの「まんが日本昔話」を見るような感じです。

 ぼくが今あげた長所は、とりもなおさず短所にもなり得ます。
 つまり、民俗学といいながら、学問的じゃないんですね。
 でも、「ソロモンの指輪」のローレンツ博士や、昆虫記のファーブルも文章が美しいですよね。学問のジャンルの中に、そういう美しい言葉を語ることが出来る人を持つということは、とても幸いなことだと思います。
 学問は知識、知恵の探求です。しかしその知識や知恵は普通の人たちに共有されなければ意味がないとぼくは思います。学問のための学問になってはいけないと思うんです。学問をする人は真摯に真理を追求するのですが、その真理は分かりやすい言葉で社会に伝えるられ、社会に新しい生命を吹き込まなければならないと思うんです。

 「遠野物語」は、日本を語る上での必読書だと思います。
  

オリジナルイラスト 柳田國士の肖像


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