今週の書評欄 20241209週

今週の新聞書評欄から、おもしろそうな本と考えたことを書いています。

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●ひっくり返す人類学
近代社会の生活に慣れきっていると、いまの社会や生活が当たり前過ぎて、そのなかで囚われてしまうことがよく起こる。
最近はマインドフルネスといったメンタルヘルス系のソリューションが喧伝されるようになった。しかしそのソリューションは社会のなかに適応することが前提になっている。おそらくこの社会となかなか折り合いがつかないのが原因なのに。
そもそも、社会とは人間の過剰な性質や暴力といったものまで含む力を社会契約によって抑えるものだ。人から生きる力が低減するのが普通なのだ。
そんな時には、社会への適応を学ぶのもいいが、この社会は絶対ではない、この社会の外でまったく違う慣習にしたがって生きている人がいることを知ることが、自分や社会を相対化するのに一番役立つと思う。
ときには、「社会」以前をのぞきに行きたい。

●就職氷河期世代
同じ世代の労働経済学者が、世代論を書いた本。
巷でよく見かける就職氷河期世代の特に後期の人々(99-2004年)の雇用は長期的に不安定で年収が低く、年収の格差は卒業後15年だっても解消しないというのはデータ上事実であると。加えて本書の論考によると、雇用が不安定な状態にあるのはこの世代の後も続いて同様の傾向が指摘できるとしている。
まぁここまではいいのだが、結論として評者が書いているのは、セーフティネットの再構築である。もちろんそれは大事だけど、もっと考える必要があるのは、労働市場の改善ではないのかと思う。
「卒業時に良い就職機会に恵まれなかったことの影響はその後の人生に大きな影響を与える。このことは、就職氷河期の当時に予想されていた」と評者は書いている。そこが一番の問題ではないのか?卒業時に立っていた位置に固定される。正社員が固定されて変動がない状態。まさに身分制ではないか。大学生の就活でセクハラ事件が結構問題になるのも、新卒が重大視されすぎているからというのも多分にあると思う。
小泉進次郎氏が雇用規制の見直しをいったら掻き消されてしまったが、最近はそういった規制を抜けるためにタイミーやメルカリハロといったすきまバイトのサービスが出てきた。これも新卒一括採用、そして固定化した雇用が生み出したサービスだろう。
この辺の労働環境にも突っ込んだ論考が必要な気がする。


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