【映画感想】私は憎まない

ネタバレしています。
まだ見ていない方はご注意ください。

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本映画に出てくるパレスチナの医師のことは知らなかった。ノーベル平和賞の候補に何度もあがっている人らしい。

もともとイスラエルでも産婦人科として、働いた経験のある医師だ。そんな人がイスラエル軍に家族を殺害されて、憎まないと言えるのは尋常ではない。生き残った娘のひとりも、ジャーナリストの憎しみの気持ちはありますか?と問われて、「for whom」誰を?と答える。常人ではありえない反応である。デュマの小説モンテ・クリスト伯爵のように復讐の炎に薪を焚べ続けるのが普通だろう。

もし自分が同じ境遇になったら、憎まない、誰を憎む?と言える自信はない。
だがポイントは、許すのではなく、憎まないということだろう。彼らは許している訳ではない。

事実イスラエルの軍と政府の責任を追求して、国家を相手に訴訟を起こし、闘っている。
彼らの願いは、イスラエル政府に事実を認めてもらい、責任の所在を解明し、今後のパレスチナとイスラエルの戦争なき共存である。イスラエル当局からの回答は、一言の謝罪もなく、軍事行動には事故が不可避の一点張りだ。そんな状況でも彼らは、許す訳ではないが、憎まない。

余談だが、ベトナム戦争でナパーム弾から逃げる少女の写真で有名だったキム・フックさんの講演を聞いたことがある。彼女は長い時間を経て、ナパーム弾を打ち込んだ兵士と和解するまでに至っているとのことだった。彼女の場合、許すという心境に至った。これも尋常ではないが、長い葛藤の末、許すことが生きることと直結していたのだろうと想像したのを覚えている。

映画を見ていてガザやパレスチナのことは知らないなとつくづく思った。おだやかな波が打ち寄せる海岸、東地中海に沈む夕日がうつくしいこと。そしてハマスが福祉団体ルーツであることなどなど、日々の情報では流れていくリアリティも少し具体的に感じることができた。まだまだ知らないことだらけで、勉強したいと思わされる。

また最後に、カナダに移住して、生き残った娘のひとりに新しい命が生まれている。彼女は子どもにパレスチナのルーツを残したいという思いで、パートナーと別姓であることを話し合って決めている。
グローバルに人が行き来する、そして家族を作る時代である。そうするとルーツを残すひとつの手段としては、姓を継承することであろう。夫婦別姓は、こんなところにも関係してくるんだろうと思った。特に労働人口の減少にともない、技能実習制度の規制緩和が進み、転職の解禁、政府は表立っては言わないが、彼らの日本への永住も視野に考えているだろう。そうなると夫婦同姓はさまざまな問題を生じさせるのではないかと、ざっくりと思った。


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