指導力とはその根底にある原因を見抜けるかが最も重要。

SNSで拝見していますトロンボーン奏者で作編曲家の福見吉朗氏がこんなことをおっしゃっていました。

個人でも、パートでも、合奏でも、『悪いところを見つける』という聴き方、意識の向け方をしていませんか。それって偏った聴き方なのですよ。そうではなく、ただ聴く。ただ観察する。その上で、どうしたら今よりもっとよくなるのかを見つける。ダメなところを直すのと、もっと良くするのは違うのです。

— 福見吉朗 (@fukurou293) November 14, 2024

僕のレッスンスタイル的に、どうしてもその人の演奏における問題点（改善点）を見つけて、それを良い方向に軌道修正するパターンが多いため、悪いところを見つける聴き方を意図的にしていることが多いです。

生徒さんが「高い音が出せない」「タンギングをキレイにするには」「バテやすい」などの悩みを持った上でレッスンにいらしてくださる場合は、その原因を特定しなければなりません。しかし「これがダメ、あれがダメ、全然ダメ」みたいな悪口のような言い回しをすることはありません。具体的な原因と解決策をセットにして実践してもらうようにしています。

ダメ出しはみんなが辛くなる

だいぶ昔のことですがNHKでNコンという合唱コンクールに参加する高校の合唱部に密着したドキュメンタリーを放送していて、顧問や指導の先生がいない活動時間に先輩が指導者的な立場になって練習を進めているシーンがありました。

その先輩（パートリーダー）はとても責任感が強く一生懸命パート練習をしていましたが、「リズムが合っていないので合わせてください！」「音程が悪いので良くしてください！」と次々とダメ出しの言葉をメンバーに投げていました。
こうしたシーン、一般の方（特に大人）からするとコンクールで良い賞をもらうために切磋琢磨している青春群像劇のように見えるかもしれませんが、実際のところこれでは部員のモチベーションは下がる一方だし、レベルの向上にはつながりません。何よりもこのパートリーダーが責任感が強すぎて、精神的にかなり追い込まれていたのがとてもかわいそうでした。

そもそも、リズムが合っていないから合わせろ、音程悪いから音程を良くしろ、このアドバイスで上達するなら指導者なんていりません。リズムが合っていないのも、音程が悪いのも必ずその根底部分に何らかの原因があります。その原因を的確に見つけて解決するための練習方法や解説などをするのが指導者の役割なのですが、それができるようになるには相当な経験や研究が必要なので、テレビに出ていたパートリーダーの子は一切悪くないです。その構図を放置している顧問や指導者が問題です。

では顧問など指導者がいない時にどうするか。それは部活によっても、その時のメンバーによっても変わりますが、ひとつ言えることは先輩だからとパートリーダーに指導者役になってもらう必要はないと思います。先輩と言っても1,2年の経験値の差しかなく、指導方法などを専門的に学んだわけではないのですから、そこにいるみんなで作り上げていける環境にしたほうが絶対良いです。

「合わせる」の勘違い

吹奏楽や管楽器のアンサンブルでも「合わせる」という言葉を日本人は特に「でしゃばらないように一歩引いて様子をうかがう」姿勢になりがちで、それでは音楽になりません。逆に演奏者全員がそれぞれ最も良いと思っているパフォーマンスで主張して（一歩前に出て）、そこで相手を尊重しつつ落とし所を見つけていくのがアンサンブルです。

ですから、合唱であってもまずはそこにいる全員がそれぞれ一番良いと思う音楽を主張をしていくように心がけるのがスタート地点だと思いますし、そのための準備（例えば音程やリズムをどのようにしたら楽譜通り歌えるのか）を指導者がその方法や進め方を含めて全員に把握してもらうように心がけることが良いと思います。

リーダーに全部任せてしまうのは多くの生徒の自主性を奪ってしまい、しかも音楽をする上での構図としてはよくない（各自の演奏における主張がなくなってしまう）と思うのです。

指導者は最も根底にある部分を正しく理解し、生徒さんが正しい基礎力を手に入れられるレッスンを行うことがどれだけ大切なことかを理解してほしいです。ダメ出しは意味がありません。

荻原明（おぎわらあきら）