号泣させるS・ダルドリー監督にご用心! (2回目のリトル・ダンサー。ネタバレあり) その3
拳を上げ戦ってきていたのに、息子のためのその手をおろす。それは、周囲を敵にまわすことでもあるから、ずっとこの町で生まれ育ってきた父親にとっては、とてもハードルの高い試練だっただろう。
結局。
ビリーは、見事入学考査を突破し、ロイヤルバレエスクールに入学するため、ロンドンへと旅立つ。直接は描かれていないけれど、おそらく才能あふれるビリーは、奨学金を得ることができたのだろう。
ワーキングクラスの家庭ゆえ、自家用車は持っていないと思われる。また、同行するお金もないみたいだ。
だから。
長距離バスのターミナルで、別れることになる。
もう出発の時、ドアも閉まっているのにトニーが、
「I miss you」
と声をかける。
聞こえるわけがない。
「え、何て言ったの?」
走り出すバスの中、思わず立ち上がるビリー。男兄弟にありがちな、弟をとことんいじめて支配する兄だったトニーは、実はビリーを応援していたんだな、と気づくシーン。
ここでも涙があふれ出て困った。
もうそろそろラストシーンだ。
それは、かろうじて憶えていた私。
最後は、父親、トニーと世間にカミングアウトして女装してきれいになったマイケルがロイヤルバレエシアターの客席に座っているシーン。
「白鳥の湖」でプリンシパルとなったビリーの晴れ姿を見に来たのだ。ここではもうビリーは大人という設定なので、あのアダム・クーパーがビリー役。
家族が来ていることを知ったビリーは、軽くうなずき息を整えてステージへと駆け出していく。その後ろ姿の美しいことと言ったら!
華麗に舞うその姿には、皆の色々な思いが乗っている。それを背負っても余りあるほどに、ビリーの背中は大きくなっている。
こんなに涙してしまうとは思わなかった。年を重ね涙腺がもろくなったのか、知識を得て作品に散りばめられた様々なメッセージを受け取るアンテナが鋭くなったのか。
おそらくその両方だと思われる。
また、ちょっとしたビリーの表情が本当に素晴らしいことに今回気づいた。きっと監督の演出が優れているのだろう。子どもの持っている何かを引き出すのがとても上手なのだと思う。「TRASH」も「ものすごくうるさくて・・・」も子どもの演技で、作品をぐいぐいと引っ張っていっている。