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寝入りは良いけど


眠りに落ちる瞬間、
脳は軽々とリセットされる。
嫌なこと、些細なこと、
時に気づかぬうちに
蓋をしてきた感情まで
夜の闇に溶けるように。

けれど、
身体はと言えば──
リセットなんて言葉、
まるで他人事のように。

むしろ少し重い。
肩はなんだか張っているし、
膝はじわりと軋む気がする。
年齢か?
それとも、
使い古した布団の問題か?

「睡眠の質」
などと巷では簡単に言うけれど、
質を測るモノサシなんて、
誰が正解を決めたのだろうか。

深い眠り?
夢を見ない時間?
体温がほんの少し下がる瞬間?

***

思い返せば昔は、
眠ればすべてが治った気がした。
怪我も、風邪も、
失恋だって。
布団に倒れ込んで
朝を迎えたなら、
なんだか世界が違って見えた。

でも今はどうだろう。
朝目覚めても
昨日の疲れがまだ
どこかにまとわりついている。
そんな気がしてならない。

歳月がもたらすものは、
知識や経験ばかりじゃない。
積み重ねた疲労や痛みも
背中に抱えて、
それでも前へ進む力だと
誰が教えただろうか。

***

布団に横たわると、
身体が深く沈む。
少し硬い。
寝返りを打つたびに、
きしむ音が響く。

昔はこれで十分だった。
柔らかすぎると落ち着かなくて、
どこでも眠れた。
畳の上でも、
ソファーの上でも、
時には床の上でも。

でも今は違う。
「自分に合った寝具を探しましょう」
なんて広告の一文が
やけに説得力を持つ。

***

脳は自由だ。
寝るだけでリセットされる。
けれど身体は、
そう簡単にはいかないらしい。

寝具のせいだけじゃない。
きっとそれは、
歳を重ねて
自分が積んできた時間の重み。
それが身体に刻み込まれている。

睡眠の質を上げるために
高価なマットレスや枕を試しても、
どこか足りない。
それは、きっと、
心の問題なんだろう。

***

眠りの中で、
心も身体も緩む感覚を
もう一度取り戻したい。

きっとそれは、
「どう眠るか」ではなく、
「どう生きるか」
にかかっている。

日中の些細なストレス。
小さな無理の積み重ね。
それが眠りを浅くし、
身体に残る疲労の正体だ。

***

眠る前の自分に問いかける。
今日、笑ったか?
今日、泣いたか?
今日、ほんの少しでも
肩の荷を降ろせたか?

そんなことを
考える間に、
瞼が重くなる。

***

朝、目が覚めたとき。
昨日より少し軽い気がするなら、
それでいい。
完璧じゃなくていい。
疲労がゼロにならなくてもいい。

「リセット」なんて言葉は、
脳の都合のいい幻想だ。
身体には身体の
ペースがある。

そのリズムに合わせながら
今日を始める。
そうしてまた、
眠りにつく夜を迎えるのだ。

***

眠りはリセットではない。
休息と再生のサイクルだ。
壊れたところを
ひとつずつ補い、
滲む疲れと
寄り添いながら生きていく。

それが「質の良い眠り」
なのかもしれない。

あなたの眠りが
明日の一歩になることを願って。

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