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サイバー・C・プロジェクト

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SF小説『サイバー・C・プロジェクト』のハコ。
運営しているクリエイター

#サイバーシープロジェクト

No.1。そして猫 /第9話

No.1。そして猫 /第9話

「ピヨ?」
入ってきた彼女をみて、菜々子はぽかんとした。
まさかこんなところで会うとは思っていなかっただからだ。
会えて嬉しい気持ちよりも、戸惑いが大きい。
それにさっき、俊は彼女を『No.1』と呼んだのだ。

「菜々子。久しぶり。」
ピヨは飄々とした態度で菜々子にさらっと挨拶をする。
そして先生の方に向き直って言った。
「私を覚えていますか?先生」
先生は、こっくりと頷く。目には涙が浮かんでいた

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昔話 /第7話

昔話 /第7話

我々はどこで道を誤った?
美しい未来を求めた夢は、いつから欲望にまみれていったのか?
いや、最初からそんな夢は、なかったのかもしれない。

少し、昔話をしようか。
今から5年前のことだ。

サイバーウォッチが売れに売れた頃。
我々開発メンバーは、サイバーウォッチの第2弾となる新たな開発に着手した。
それは、声を出さずとも脳の信号をサイバーウォッチに仕込んだ端末がキャッチして、脳からの命令で動くとい

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友達/第5話

友達/第5話

あれからしばらくは、何もなかった。
毎日俊に起こされ朝ごはんを食べて、出かける俊を見送って、洗濯や掃除をする。
そのあとはお昼ご飯を食べに街に出かけて、ついでに買い出しを済ませて俊が帰ってきたら一緒に夕御飯を食べる。
菜々子はそうやって日々を過ごしていた。
「先生から連絡が来るまでは待機だ」
俊はそう言っていた。

「ただでウチに居れると思うなよ。家事は完璧にやっとけ」
食事は俊が作るが、それ以外

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秋の風/第4話

秋の風/第4話

いい匂いがする。

バターとかベーコンの焼ける、美味しい匂いだ。
そして布団のなんて暖かいこと。
すべすべする感触を楽しみながら、菜々子は布団の中でもぞもぞ動く。
あ、お線香の匂い。
そこで、はっきりと目が覚めた。

「起きたか?出かけるから飯食えー」
俊がてきぱきと動きながら菜々子に声をかけ、テーブルにお皿をのせた。
お皿の上は思ったとおり、ベーコンとトースト、それから卵焼きだった。
「なんか

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名前/第3話

名前/第3話

男はシュンと名乗った。
偽名かと思ったが
「ニンベンに、ムって書いて…」
とわざわざ漢字まで教えてきたので本名なんだろう。

俊は冷蔵庫から水の入ったペットボトルを放り彼女に投げる。
わっ、と声を漏らしつつなんとかキャッチすると
「ナイス」
と俊は顔をくしゃっとさせて笑った。

硬そうな黒い髪。長身で体格も良かったが大柄でもない。
案外、歳も近そうだ。

俊は彼女がアンドロイドと分かってからも、す

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サイバーシティ/第2話

サイバーシティ/第2話

サイバーシティは、思っていたよりもずっと平和な街だった。そして、彼女が知っている他の街と、さほど変わらないように思えた。

街にはビルが立ち並び、皆明るく楽しそうにしていた。
気になった事といえば、皆が腕時計をしていて、その腕時計に頻繁に話しかけたり触ったりしていることだった。

「あの、その腕時計はなんですか?」
思い切って近くを歩いていた女性に聞いてみる。
「サイバーウォッチよ。電話もできる

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サイバー.C.プロジェクト /第1話

サイバー.C.プロジェクト /第1話

『逃げて。此処から逃げて。』

頭の中に見知らぬ声が響く。
その声に従い、彼女はとにかく出口を探していた。
時折頭の奥がズキンと痛む。どうやら頭を強く打ったらしい。

この建物は、方向感覚を狂わせる。
真っ白い壁に真っ白い床と天井。窓は1つもなかった。合わせるように、彼女は白い服を着て、白い腕輪をつけている。腕輪にはCという文字が刻まれていた。

長い髪をくしゃりとかきあげて、彼女は必死にもう

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