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「正倉院=東大寺の宝物庫」ではないという話

 奈良の東大寺にある正倉院。歴史の教科書には「聖武天皇の死後、妻の光明皇后が遺品を納めた宝物庫」と書かれています。むろん、普通に生活している限りその理解で十分です。

 とはいえ、私は「言葉の細かい意味」にはこだわっておきたいと考えています。「正倉院」という言葉の本来の意味は、「東大寺にある有名な宝物庫」ではないからです。

①「正倉」とは何か

 「正倉」とは「主要な倉」程度の意味です。特に、中央や国府、寺院などに付属し、税や貢納品などを納める倉庫を指しました。正倉に納められたのは正税、つまり古代の主要な税である穀物が中心でした。「正倉」は本来全国各地にあるもので、固有名詞ではなく一般名詞です。

②「正倉院」とは何か

 「正倉院」とは「正倉が集まっているところ」、つまり「倉庫地区」という意味です。また、多数の正倉を管理する組織を指すこともありました。要するに、「東大寺正倉院」は、東大寺に付属する倉庫の「集まり」だったのですね。

 しかし、「正倉院」に並んでいた倉庫は長い時間を経て姿を消し、現在では一棟の正倉を残すのみになりました。現在では、「正倉院」という言葉はこの正倉を指す固有名詞として使われています。

 東大寺を訪れて正倉院を拝観した時は、倉庫の立ち並んでいた往年の姿に思いをはせてみてもいいかもしれません。

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