「考えすぎ」に悩む中高年へ。『パパラギ』が示すシンプルな幸せの見つけ方
あなたの頭を今占領している心配ごとはなんですか?
自分の年齢、健康、仕事、家庭、家族のこと。
さらには社会情勢、経済、戦争、災害の不安。
現在起こっていることから、将来の心配を少なくするために、私たちは頭をフル回転させています。
でもそもそも、その「考えること」が、自分を苦しめている……という考え方もあります。
昨日、年齢についての不安について書きながら、懐かしい本のことを思い出したので、久々に読みかえしました。
『パパラギ はじめて文明を見た南海の酋長ツイアビの演説集』
著者:エーリッヒ・ショイルマン
訳:岡崎照男
とても有名な本なので、すでに読まれている方も多いと思います。
南の島の酋長の視点で、やさしい言葉で書かれた現代文明批評
この本の語り手は、タイトルの通り、南海の酋長ツイアビなる人物です。
話している相手は、自分の仲間である、島の人たち。
西洋文明を初めて目にした際の驚きと洞察を、島民に向けた演説という形式で伝えています。
パパラギとは、西洋文明の中で暮らす白人たちを指した言葉ですが、その価値観に染まった日本の現代人たる私たちも該当します。
そのため、多くの人が、ハッとさせられる視点が、この本にはあります。
素朴な視点で、お金、もの、時間に縛られる生き方を批判的に見ていて、子どもにもわかるやさしい言葉で、「ものやお金は本当に必要だろうか? 考えすぎが余計な心配ごとを生んではいないか?」といった問いかけがされています。
年齢のことなんて忘れているくらいでいい
私が記憶に残っていた、年齢について書かれた内容は、「パパラギにはひまがない」という章の中に書かれています。
ここでは、「パパラギはいつも時間の恐怖に取り憑かれている」ということについて語られます。
時間のことをいつも考えているし、細かい単位に分けて難しくとらえる。
今ここにある時間のことを考えず、過ぎ去った時間や、未来のことばかり心配している。
そのことを、ツイアビは「重い病気のようなもの」と語ります。
その「重い病気」の延長上にあるのが、「年齢の心配」だというのです。
パパラギは誰もが、自分が生まれてから何回日がのぼり、日が沈んだか、幾度季節が過ぎ去ったかを知っているが、「そんなことは知らない方がずっといい」とツイアビは仲間たちに語ります。
読んでいて、ドキッとしませんか?
私は、考えすぎると不安が加速してしまう自分のことを、言い当てられているような気がしました。
時代を越えたメッセージが心に響く
この本との出会いは、私が高校生だった頃(1980年代)です。
ちょうど、単行本が日本で出版された頃のようです。
夏休みにラジオでNHKのFM放送をつけっぱなしにしていたら、朗読の番組内で、この本が朗読されていたのです。少し聞いただけで、語りかけるような言葉と、新鮮な内容に心がとらえられて、それからこの本の朗読が終わるまで毎日聴いていたのを覚えています。
「演説集」という体裁と、「朗読」は相性バッチリでした。今でも、この本を読んでいると、あたたかみのある深い男性の声で、実際に語りかけられているような気がします。
その頃は、ツイアビは実在する人物で、その演説集だと思っていましたが、実はこの本はツイアビの演説集という形をとった創作だということが、あとでわかりました。
(作者のドイツの人、エーリッヒ・ショイルマンが実際に行った、第一次世界大戦前のポリネシア、サモアをイメージして書いたようです。)
それでも、この本が提示する現代社会に対する知恵と啓示、警告の価値は変わりません。
『パパラギ』は、100年にわたって愛され続け、日本版だけでも累計100万部を突破しているベストセラー&ロングセラーとのこと。それだけ魅力的で、普遍的な内容が記されているということです。
中高年の心をほぐして視点を変える一冊
ロングセラーの本で、児童書版が出ていること、また高校生の私が惹きつけられたことからもわかるように、若い人も楽しみ、気づきを得られる内容です。
ですが改めて読み返してみて、「丸い金属と重たい紙(お金のこと)」のために長い時間を費やしてきた中高年が、これから人生の後半、どう生きてどう過ごしたいかを考えるときに、心をほぐして視点を変えるための一冊としてとてもオススメだと思いました。
「今すぐ自分に役立つ本」を読むのに、少し疲れたら、こんな本もいいと思います。
電子書籍のサンプルで、もくじのところを読むだけでも、この本のユニークな内容に触れることができますよ。
文庫版。私が読んだのはこちらです。
カラーイラストでイメージがわきやすい、児童書版も出版されています。
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