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【ネタバレ感想】『光る君へ』第36回「待ち望まれた日」

週刊文春WOMANの、脚本の大石静のインタビューは読まれましたか?

話が進んできた現時点ならではの話が語られています。
私の好きな、第31回でまひろの周りに色とりどりの紙が舞い降りてくる「ひらめき」のシーンの裏話があり、興味深く読みました。

文字書きの性で、脚本、セリフ、構成に私は主に注目していますが、このインタビューを読むと、「各シーンをどう作るか、撮るか」という演出さんの力もすごいんだなあと感じます(役者さんの演技はもちろん言わずもがなです)。

先週の一条天皇のお渡りから、なんと速攻懐妊です。

各話サブタイトルからして、今回はほっと一息おめでたムードの話かと思っていたら、全然そんなことはありませんでした!

まひろを形づくった「漢文」の教養の再確認

まひろがすっかりお気に入りになった中宮彰子。表情も親しげでやわらかです。

彰子「今日は気分がよいゆえ、ないしょの話をしたい」

なぜ漢籍(中国の書物。漢文で書かれている)に詳しいのかと聞かれて、まひろは、学者だった父が弟に読み聞かせているのを覚えた、と話します。

改めて、まひろは漢文の教養のある「変わった」おなごだったことを思い出しました。

中国の漢文では、政治のありようや君子のあり方、心の平安の保ち方、この世をどうしたら平和にできるかなどについて、長い時間をかけて教養あり才覚あるたくさんの人により書物が書かれました。その中から選りすぐりの名作が、このように海外にまで伝わり、役に立つ教養として読まれ、学ばれているわけです。

これを学び、知ったまひろが、教養の大切さを知り、庶民の暮らしやあるべき政治の姿に目を向けるようになったのは、ありうることです。一方で、当時の女性としては「変わり者」とされたことでしょう。
理想をそのまま推し進めようとする道長も、まあまあ変わり者と見られていたようですし。

一条天皇「高者(こうしゃ)、未だ必ずしも賢ならず。下者(げしゃ)、未だ必ずしも愚ならず」

彰子「あれはなんの話だ?」
まひろ「白居易の新楽府の一節にございました。唐の国の白居易という詩人が民人の声を代弁し、為政者のあるべき姿を示した漢詩にございます。帝のお好きな書物と存じます」
彰子「それを学びたい。ないしょで」

漢文を学んで、一条天皇を驚かせたい、という彰子は、とてもかわいらしかったですね。
思えば彰子自身はほとんど皇后定子と会ったことはないはずですから、一条天皇の心を占める亡き定子は、素晴らしい女性に見えていて、そのようでありたいという憧れもあるのかもしれません。

まひろ「人の心の好惡、はなはだ常ならず。好めば毛羽を生じ、憎めばきずを生ず。(中略)瑕(きず)とは、大切な宝なのでございますよ。瑕こそ、人をその人たらしめるものにございますれば」

これは、まひろの苦しい体験、つらい体験のことを指しているのでしょうか。含蓄のある言葉です。(この後に、道長が正妻との子どもたちを連れてきて挨拶させるという……この時の二人の素知らぬ顔!)

白居易の「太行路」という詩からの言葉のようです。

彰子の苦しい出産シーン

出産のために、彰子は両親の道長と倫子が暮らす実家、土御門殿に下がります。

まひろの新たな執筆場所として、個室?が用意されました。
「妾になっても一緒になりたい」とかつて願った人と、その奥さんと、ひとつ屋根の下。いろんな意味でドキドキしますね。原稿は進むのでしょうか?
倫子に迎えられたまひろの表情も、心なしか複雑そうです。

これまでの長い道のりを思えば、あとは安心して出産するだけ……かと思っていたら、ただでさえ初産で彰子は不安なのに、出産が大変でした!

まひろの残した出産の記録の文にかぶって、その様子が描写されます。シリアスなシーンでありながら、どこか滑稽でもあります。

伊周の呪詛に対抗するかのように、祈祷僧たちが集まってやいのやいのとお経を読みたてている。まひろたち女房にも、邪気払いの米がガシャガシャと振り掛けられる。

「中宮にとりついたもののけをよりましに移そうと」というのはもののたとえかと思ったら、実際に巫女に何かが取り憑いて、「道長ー! 道長ーーー!!!」と憎しみの絶叫をしている。
伊周の呪詛もすごい。木の人形に何度も突き立てられる刃。効いている!?
これはもう、道長も倫子も、彰子もたまらないですよね。

『源氏物語』の葵上の出産シーンを思わせるかのような、騒々しくオカルティックな緊迫した戦い(?)のシーン。無事出産後の清められ洗われたようなすがすがしい空気が、喧騒と対照的でした。

やはり人の恨みが一番恐ろしい

彰子の出産前、ききょうが、「源氏物語」の作者はまひろだと知った時のショックの表情は、怖いぐらいでした。

ききょう「その方が帝のお心を引きつけまいらせる物語を書いたのでございますか?」
伊周「帝はそなたの『枕草子』を破れるほどお読みになっておったのに、今はその者の物語をいたくお好みだそうだ」

一方で、まひろと道長の仲は、中宮彰子に取り立てられたまひろを恨む女房に怪しまれます。ここでも、動機は「恨み、ねたみ」なので、なかなか根深いものがあります。

恨みが元なら、誹謗・中傷も起こりうるところを、道長とまひろは「火のないところ」ではないわけですから。

そこに、あえて皇子の祝いの席でまひろに歌を詠ませ、それに応える歌をあうんの呼吸で返した道長。「若紫」で絡まれるまひろを、救ったようにも見えましたが、衆目の前でまずかった。

倫子は席を立ってしまいました。
まひろを問いただす赤染衛門。
まだまだ『源氏物語』を落ちついて書き進めなければならないのに、作者を襲うスキャンダル(なのか?)。
ききょうも、まひろに対して敵意を抱いてしまいそう。
ちょっとこの後が怖いですね!


STAFF・CAST

『光る君へ』(2024年)NHK 大河ドラマ
脚本/大石静
音楽/冬野ユミ
ナレーター /伊東敏恵
出演/ 吉高由里子、柄本佑

STORY

大河ドラマ「光る君へ」(2024年)。主人公は紫式部(吉高由里子)。 平安時代に、千年の時を超えるベストセラー『源氏物語』を書き上げた女性。彼女は藤原道長(柄本佑)への思い、そして秘めた情熱とたぐいまれな想像力で、光源氏=光る君のストーリーを紡いでゆく。変わりゆく世を、変わらぬ愛を胸に懸命に生きた女性の物語。(NHK公式サイトより)

大河ドラマ「光る君へ」 - NHK 

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