マガジンのカバー画像

主従関係とSMと旧い記憶

5
自分の為に書いた記録です。
運営しているクリエイター

記事一覧

海のむこう

海のむこう

波打ち際で溺れかけながら藻掻いていた私を主様は舟に乗せてくれた。
帰る場所がないと伝えると、お前が生きていける島がきっとある、探しに行こうと乗せてくれた。
雨の日も晴れの日もだだっ広い海の上で私は主様の話に耳を傾け、二人で並んで魚を釣ったり、嵐の中で喧嘩したりした。
いくつもの島を過ぎた頃、大海原の真ん中で、私は主様に聞いた。
この旅が終わったら、あなたはどうするのですかと。
主様には帰る場所があ

もっとみる
秋の日

秋の日

いちょう並木が燃えるようにゆらめいて、青空とビルの谷間に遠くまで続いていた。
明るい空の下を歩く。
人が怖くて、知らない人にばかり会っていた。
働くのが怖くて、やりたくない仕事ばかりしていた。
何かを感じるのが怖くて、縮こまって過ごしていたら、外に出るのが怖くなってしまっていた。

深呼吸する。
考えすぎ、と諭してくれた声を聴く。
意味ではなく音として入ってくる声を私は背すじを伸ばして聴いている。

もっとみる
クリスマス

クリスマス

夜景が綺麗だと感じるようになったのは、人を好きになってからだった。高台から見える街の灯も、街路樹を彩るイルミネーションも、きらきらと目に映るようになっていった。

子供の頃、それらはただの電気だと思っていた。星の灯りと比べて何も美しさを感じない、汚い、環境を汚す人間の営みだと思っていた。
大人になり、街明かりに感じた一瞬の心の動きが私はとても嬉しかった。

それから何年も経ち、人混みの中、まばゆい

もっとみる
帰る場所

帰る場所

10代の頃、いわゆる夜の街をフラフラと歩いていた頃があった。
パーカーに膝上までのショートパンツ、素足に短い靴下とスニーカー。背負ったリュックには図書館で借りた本と捨てきれなかった夢の残骸みたいな参考書が入っていた。よく声をかけられたのは、今思えば家出少女に見えたからなのかもしれない。
可愛くもない地味な子供にそぐわない街。そこに行くだけで少し心が満たされて、家に帰る時間も遅らせることができたから

もっとみる
とある場所の思い出

とある場所の思い出

あの頃の私は一体何を探していたのだろう。
嘘の笑顔で仕事をし、家に帰って化粧して、いつもと全く違う雰囲気の服で出掛けていく。
初めて店の前に立った時、よく一人で来たねとママに言われた。
お洒落しても抜け切らない地味さと、学生に見られる事も多い髪型から、そこにそぐわない人間に思われたのだろう。

店には様々な人がいた。
スポーツの大会帰りだと言葉少なに話す女性は、知らない人に乱暴に犯されたくて堪らな

もっとみる