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海のむこう

波打ち際で溺れかけながら藻掻いていた私を主様は舟に乗せてくれた。
帰る場所がないと伝えると、お前が生きていける島がきっとある、探しに行こうと乗せてくれた。
雨の日も晴れの日もだだっ広い海の上で私は主様の話に耳を傾け、二人で並んで魚を釣ったり、嵐の中で喧嘩したりした。
いくつもの島を過ぎた頃、大海原の真ん中で、私は主様に聞いた。
この旅が終わったら、あなたはどうするのですかと。
主様には帰る場所がある。それでも、過去に幾度も海を越え、舟を操ってきたのを私は聞いていた。
まだ決めてない、と主様は色の無い声で言って、でも、舟に乗せるのはきっとお前が最後だろうな、と呟いた。
波の音がざんざんと響いていた。明るい海の果てにまだ島は見えなかった。
海に漕ぎ出すことはなくなっても、お前とたまにそのへんの池で釣りをする手もあるぞ、と主様が冗談めかして言ったので、私も笑ってしまった。
この旅が終わったら、もう二度と会うことはないのかもしれない。でももしも、池の畔で二人で並んで釣り糸を垂らす、そんな未来が待っているなら。
生きていける島なんてずっと見つからなくてもいいのかもしれない。それでも私達の旅の終わりは最初から決めてあるから。
嵐の日も晴れの日も私は主様と共に進む。