今の僕には、ポール・オースター「ブルックリン・フォリーズ」が最高
失敗も、別れも、裏切りも人並みに味わってきたつもりだけど、思い出したくもないなんてことは案外ないもの。最悪だったネタを笑い話にできる、そんな年頃になった。
そして残された時間を考えることも増えた。
だから今ポール・オースターの小説「ブルックリン・フォリーズ 」が最高だ。
ひとり語りの主人公は、僕と同じ60歳を目前にした男ネイサン。病気、定年、離婚を片付けて生まれ育ったブルックリンにひとり住まいを始める。
こう書くと湿っぽいけどそうじゃない。
達観したネイサンは、友人や家族親戚周辺に起こるアクシデントも彼らの“愚行”も愛情ある軽快さで捌いていく。
テンポのいいロードムービー調の群像劇。
喜劇王チャールズ・チャップリンの名言がオーバーラップする。
Life is a tragedy when seen in close-up,but a comedy in long-shot.
人生はクローズアップで見ると悲劇だが、ロングショットで見ればコメディだ。
ネイサンのセリフを引用したい。
未亡人女性ジョイスが、娘の“愚行”に嘆く。ネイサンがジョイスを諭す場面だ。