信じることの怖さ。信じさせることの責任の重さ。
「ONODA 一万夜を越えて」
フィリピンのジャングルで「日本兵」として30年間潜伏を続けた小野田寛郎さんが帰国したニュースが報じられたのは1974年、僕はまだ10歳だったけど大きな話題になったことを覚えている。
今回映画を見て初めて知ったのは、小野田さんが終戦の前年に当地に着任したことと、残置諜者(ざんちちょうじゃ)という任務を負っていたこと。残置諜者はスパイのように潜伏調査を行う。
日本の敗戦を想定しつつ小野田さんを送り出した陸軍中野学校二俣分校では、サバイバル技術やゲリラ戦の訓練、スパイは死ぬことを許されないと指導していた。
小野田さん最大のミッションが「生き延びる」ことだった。
さすがに10歳の僕はそういうことまでは知らず、「ジャングルから生還した日本人」に対して、戦争が終わったことを信じられないままだったことに同情したのだった。
時として何のために生きているのだろうかなどと考える今の僕は、強く信じ続けていることがないから、信念の幹のようなものを持っていないからそんなことを考えるのかもしれない。
上官の命令を心に刻み、それが生きる意味となって30年。疑いもせずということでもないんだろうが、信じることの怖さを想う。
上官を演じたのはイッセー尾形。上官は、小野田さんら青年兵たちを”洗脳”した過去を忘れ、もしくは忘れたふりをして、小野田さんがジャングルに潜み続けていた頃、平和と高度成長の恩恵を受けつつ普通の暮らしをしていた。
信じることの怖さ。それ以上に信じさせることの責任の重さ。
日本人特有でもなければ戦争だけの話でもない。
(フランス・ドイツ・ベルギー・イタリア・日本共同製作/アルチュール・アラリ監督/2021年公開)
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