【古典邦画】「真昼の暗黒」
左翼社会派である今井正監督の、1956(昭和31)年の独立作品「真昼の暗黒」。脚本は橋本忍。
戦後の冤罪事件の一つである「八海(ヤカイ)事件」を題材にしたもので、基本は裁判劇である。
八海事件とは、昭和26年に山口県の村で起こった強盗殺人事件で、老夫婦を殺して金を奪った訳だが、当初、犯人の青年は「独りでやった」と供述したが、警察は複数犯の犯行と睨み、拷問による取り調べの果てに、仲間とやったとの供述を引き出し、無関係であった青年の知り合い4人(前科があった)を逮捕、裁判となり、死刑及び無期懲役の判決が出されたという、全くの冤罪事件である。
4人は、17年という長期にわたる裁判の末にやっと無罪を勝ち取った。
この作品の公開時はまだ裁判継続中で、圧力もあったという。従って、事件の冤罪性を視聴者に訴える意図がある。
ということで、内容が内容だけに面白味の全くない、暗〜い作品である。
裁判所の外で関係者が「無罪」「勝訴」などと大書きした紙を掲げるが、この事件の裁判から始まったという。
現代では、こうした冤罪事件も減っていると思われるが、一度、警察に睨まれると、なかなか覆すことが難しいのは、歴史を見てもよくわかる。警察は、自分らの組織とプライドを固守するために、例え、冤罪とわかっていようとも、犯罪者で押し通そうとするのだ。いざとなると日本のお上の組織は恐ろしい。
この事件の場合、警察の策略で、なるべく刑を軽くしたい犯人が、無実の人を共犯者に仕立てあげたという構図だが、無罪の者のその後の人生はめちゃくちゃになる。裁判のために家庭も結婚も犠牲になって、全財産を使ってしまう。
ラストの、無罪の青年の「まだ最高裁がある!」との叫びが痛々しい。
冤罪が証明されれば良いが、中には冤罪のまま吊るされた人間もいるのではないか?
ということで、今井監督らしいけど、つまらない作品であった。