【古典邦画】「浮草」

小津安二郎監督の、1959(昭和34)年の大映作品「浮草」。確か3回目の鑑賞。

昔に小津自身が撮った「浮草物語」のセルフ・リメイクである。

旅芝居一座の座長(二代目中村鴈治郎)が、愛人(杉村春子)と実の息子(川口浩、あの探検隊の彼)がいる町を興行で訪れて、隠れて会いに行き、親しく交流するが、今の連れ合いの、一座の看板女優にバレて一悶着ある話である。

看板女優すみ子を演じた京マチ子と、すみ子に頼まれて座長の息子を誘惑する若手女優の加代を演じた若尾文子が、とにかく魅力的で、とてもイイ女である。

ただ誘惑して困らせるつもりだったものが、加代も息子も恋仲となってしまって、加代が身分違いを案じて「これ以上はダメよ、別れましょう」と言っても、唇を奪われると背中に手を回してしまうところなんぞ、もうキュンキュンでたまらん。小津映画には珍しく何回もキスシーンがあるし。

すみ子も、愛人のところへ乗り込んで行って、雨が降る日本家屋の軒先で、座長と激しく罵り合う(屈指の名シーン)ほど情熱的だし、ラストは意地を張って頑なだった座長に声をかけて世話するほど、優しくて懐が深いし。不振で解散となった一座を、一から出直しと座長を盛り立てる逞しさがあるし。

愛人の杉村春子がちょっとイメージではないけど。

結局、男は責任があっても“コドモ”なんだよなぁ。

また、中村鴈治郎がいかにもの面構えであり、節々にちょいとしたユーモアを入れるのも小津の定番といえる。

座長は、実の息子には、芸人の自分とは違う偉い人間になってほしいと期待をかけていた訳だが、加代に熱を上げて、一緒になりたいと言い出す始末。カエルの子はカエルぢゃないけど、結局、子供に過剰な期待をかけても、子供には子供の人生があるのだし、親の思い通りには決していかないものなのだ。親の言う通りに人生を送る子供くらい、アブナく、つまらない存在はないだろう。


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TOMOKI
脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。

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