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公教育をイチから考えよう

前回に引き続き教育学者苫野一徳氏の著書の感想となります。ただ、こちらは苫野氏とリヒテルズ直子氏の共著になります。リヒテルズさんの本はずっと読みたかったのですが、ようやく手にすることができました(Kindle Unlimitedで見つけました)。

リヒテルズさんを初めて知ったのは教育学者の尾木直樹氏(尾木ママ)と一緒にテレビ番組に出ていたのを見た時でした。その時「イエナプラン」について初めて知りました。それ以来イエナプランをはじめとした「オルタナティブ教育」(一般的、伝統的な教育とは異なる「代替教育」)に関心を持っています。上記の番組がYoutubeにありましたので、よろしければご覧ください。

ユニセフの調査結果によるとオランダは子供の幸福度が世界一ということです。この本にもそのことが書かれていますし、オランダの教育を詳述することでその理由にも迫っています。ただ、日本は何位なのか書かれていなかったので調べてみると面白い結果がわかりました。日本は何位だと思いますか。

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6位!あれ?思ったより高い。

オランダが1位だという事実より、日本の6位が気になってしまたので、調べてみました。

上の表でもわかる通り、日本は「教育」と「日常生活上のリスク」において1位となっております。ここでは、「日本の教育もイエナプランなどのオランダの教育を見習おう!」って展開で書こうと思っていたのですが、日本の方が順位が高くて、いきなり出ばなをくじかれました・・・。調べてみると、教育分野の内訳は、就学前教育就学率(6位)、高等教育就学率(10位)、ニート率(10位)、PISA学習到達度テストの平均点(2位)、だそうです。ラッキーなことに(?)これらの内訳は日本の教育における問題をあまり映し出していないので、結果的に一位となったようです。

逆に「物質的豊かさ」が21位になっています。これは驚きました。それこそ日本が世界に誇る領域だと思ったからです。この内訳は、「相対的貧困率」と「物質的剥奪」の2つの領域で測られており、なるほどなと思いました。バブルがはじけ、小泉政権のあたりから我が国は格差が加速度的に広がっていき、日本は今では立派な貧困大国です。もちろん発展途上国のような絶対的貧困であえぐ人はそこまで多くはないですが、相対的貧困(標準的な所得の50%未満の世帯で暮らす子供の割合)に目を向ければ、このような結果になるということです。ちなみに、「物質的剥奪」は所得だけでは表されない、実際の生活水準を測る方法として広く使われているものです。ここでは、「子どもの年齢と知識水準に適した本」「修学旅行や学校行事の参加費」「宿題をするのに十分な広さと照明がある静かな場所」などの8品目のうち、2つ以上が欠如している子供たちの割合を指すようです。教育問題を考え居ようと思ったら、貧困問題について考えざるを得なくなってしまいました・・・。貧困問題については毎年授業で教えているので、また機会があればnoteで書きたいと思います。

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さて、ここからが本題です。毎回前置きが長くてすみません・・・。(前置きだけで1000字超えちゃった汗)

上記動画のサムネにもあるように、オランダの「時間当たり労働生産性」は日本の1.5倍です。もし日本がオランダと同程度の労働生産性を手にできたら、日本社会は劇的な変化をするのではないかと思います。オランダの生産性の高さの要因はいろいろ考えられますが、やはりオランダの*公教育が大きく寄与しているのではないかと思います。この本もその前提に立っています。

*公教育・・・公立の学校で行われる教育という意味ではなく、公的な制度に則った教育、つまり保育園幼稚園から大学大学院などおける教育全般を指します。

本書には日本の公教育の現状は、幼いころから「勉強とは一生懸命励むもの」と洗脳し、学ぶことの楽しさを奪い、生きがいを見出すうえで大切な好奇心を摩滅させている。加えて、営利ベースの教育機会にアクセスできない貧困家庭の子供たちが教育の機会を奪われていき(今回のコロナ禍で明白になりました)、教育格差が開いている。さらには、画一一斉型の授業だけを金科玉条として管理され、子供たち一人一人を丁寧に育てる機会が与えられず、過重労働で疲れ果てた、または燃え尽きてしまう教員たちが後を絶たない、と書かれています。残念ながら反論ができません。

一方オランダの公教育はどうかというと、上の動画にもあるように、価値観の多様性をそのまま受け入れ、教育とはどうあるべきかを教育者と受益者としての親、そして子供の選択の自由に任せるために、「教育の自由」を根本的な基盤に据えています。

教育の自由

オランダでは学区がありません。つまり学校を選択する自由が国民全員に与えられています。また、オランダでは驚くことに4分の3以上の学校が私立で、ゆえに小学校であっても多様な学校が存在しています。そして教員たちには各学校の現場に即して、自らの判断で教育方法を変えたり、教材を選んだりする自由裁量権が広く保障されています。学習指導要領や受験指導に縛られる日本の教員とは自由裁量という点においては大きな違いがあります。

オランダにおける学校選択の自由は、あくまでも教育とはどうあるべきか、『良い教育』とは何かということについて、その判断の大部分を、子供、親、学校教員に託したものです。偏差値や進学実績での価値を判断し、選択を行う我が国とはやはり大きな隔たりがあります。

オランダの教育の特徴

オランダでは先述のイエナプラン教育というオルタナティブ教育が様々な学校で広く採用されていますが、その特徴を簡単にまとめます。

①時間割を科目単位で区切るのではなく、「(サークル)対話」「仕事(自律学習と協働学習)」「遊び」「催し」という4つの基本活動を循環させる。
②学級のことを「ファミリーグループ」と呼び、学級は異年齢の子供たちで構成される。
③教室をリビングルーム(生活の場)とみなし、子供たちが安心と信頼を保証される場所とする。
④学校を、子供たちを中心として、教員と保護者の三者からなる『生徒学びの共同体』とみなす。

すごいですよね。教育の向かっているベクトルが日本とはまるで違うことを痛感せざるを得ないです。オランダでは勉強ができるということよりも、人としてどう生きるかということに重点が置かれています。その証左として、宿題はありませんし、成績を数値化した通知表もありません。(レポート自体はありますが、学習状況を他の子と比べられることはありません)

また、オランダでは『どの子供に対しても平等な機会(発達の機会)を与えたいのならば、すべての子供に不平等な教育をせよ』という言葉があり、教育界で合言葉になっているということです。異年齢学級や様々な宗教・人種が織りなす多様性やカリキュラムに縛られない個別化された学習内容、さらには障碍者らにも健常者と同じ教育を施す「インクルーシブ教育」などは、前回書かせていただいた通り、日本の教育に決定的に足りない要素だと思います。

学びの個別化

「学びの個別化」といえば、イエナプラン教育には「ブロックアワー」と呼ばれる2時限分の授業時間を使った自律学習の時間があります。この時間は他の子供を遠ざけて一人で学習する子や、ヘッドフォンで音楽を聴きながら勉強する子、または友達同士で共同で学びを深める子、いろいろな学びの形があります。だからこそ、日本もこれまでの画一的な教師からの一方通行型の形を見直し(もちろんレクチャー型の授業が必要ないと言ってるわけではありません。小中高大とずっと一方通行型授業なのが大問題なのです)、アクティブラーニングなどの手法やICTなどの技術などを駆使しながら、学びの個別最適化を図っていくことで日本の教育は絶対に変わっていくと思います。子供たちは受験のための苦行として学ぶのではなく、学びの中に楽しみを見出すことができるようになれば、学校は今より素敵な場所になり、輝きだすのではないかと思います。

というわけで今回も3000字を超えてしまいました。こんな長くまとまりのない文章を最後までお読みいただき本当にありがとうございました。個人的にはこのように自分が学んだ内容をまとめ、そして感じたことをアウトプットすることで一歩一歩前進している気がします。自分の成長にお付き合いいただき恐縮の念しかないのですが、これからも学んだこと、感じたことをつづっていきたいと思います。お付き合いいただければ幸甚です<m(__)m>


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