【Tokyo Saikai Edition 004】 矢崎智也さん <前編>
東京西海noteの連載「Tokyo Saikai Edition」の第四回。今回のゲストは、コーヒーショップ「BOREDOM」のオーナー、矢崎智也さんです。東京西海の最寄り駅、用賀から電車で約一時間。京王線・高尾駅前に今年4月にオープンした商業施設「KO52 TAKAO」の2階に同店はあります。矢崎さんはショップオーナーとしてだけでなく、コーヒーロースターのコミュニケーションマネージャーも兼任し、さらにアウトドアフィールドでも活躍しています。まずは、この地を選んだ理由を伺いました。
「二人目の子供が生まれるにあたり、自然に近い場所に住みたいという思いが強くなりました。仕事を継続することも考慮し、選んだのが高尾です。2021年から住んでいます。意外と都心から近いんです。京王線だと北野を超えると、多摩丘陵が見えてきて、風景に奥行きが出てきて気持ちがいい。もともと高尾には、趣味のトレイルランニングで頻繁に訪れていました。山文脈で知り合った友人も多く、その交流もあって、この地に自然と集まるようになりました。自分の場合、トレイルランニング、フードカルチャー、地域、この三つの掛け算のようなコミュニティに属している感じです」
矢崎さんが走り始めたのは、2012年に東京マラソンに当選したのがきっかけです。その後、ハイキングの延長で走った経験や映像を通じて、トレイルランニングの世界に魅了されました。現在では年に一度、「ウルトラトレイル」というレースに参加されるまでに。その距離は100マイル、約160km。想像を絶する過酷なレースです。以前、「Tokyo Saikai Showcase」でお会いした際に、矢崎さんは「コーヒーの焙煎とトレイルランニングのトレーニングは似ている」とお話されていました。今日はその理由についてお聞きしたいと思っていました。
「コーヒーとトレイルランニングが似ている点について言うと、基本的にはフィーリングだと思っています。走っていて気持ちいい。飲んでいて美味しい。五感で味わう感じです。その中でも特に似ているのは、五感が感覚的なものだけではなく、数値でも表すことができる点です。“走っていて気持ちいい” を数値で具体化すると、1kmあたり何分、その時の心拍数がいくつ、とわかります。つまり気持ちいい状態というのが、割と再現できるものなのです。コーヒーも同じで、美味しいという感覚を再現するために、挽き目や豆の量など、レシピという形で数値を使います。感覚を再現するために数字と向き合います」
矢崎さんが仕事と趣味を並列に楽しんでいる姿が目に浮かびます。そして興味深いお話は続きます。レースに出るのは楽しみの一つですが、彼が最も大切にしているのは、レースに向けた準備だそうです。
「基本的には一人で走り、一人で楽しむものです。重要なのは、レースの日にスタートしたらゴールするだけの状態を事前に作れるか。つまり、その準備です。日常の自分の定点観測をして、その延長線上に晴れの舞台があります。そこには応援してくれる人がいて、一緒に走ってくれる人もいます。それはセレモニーだと思います。コーヒーも日常で美味しいものを楽しむものでありながら、どうやって味わうかは非常に感覚的で儀式的です。そういった意味でも、似ていると感じます」
矢崎さんご自身の性格と競技の特性が合っていることも、長く続けられる理由だそうです。そしてもう一つ彼に聞きたかったのが日々の時間の使い方。
「仕事の前後には、家族との時間、子育て、家事があります。優先順位の中で結果的に取れるのが朝5時からの一時間です。これをトレーニングの時間に充てています。自分がやりたいことは走ることなので、それが楽しみの中の優先順位。一日を終えると22時には疲れているので就寝し、翌朝まで体の回復を待ちます。自分のやりたいことを、自分のペースでやっているだけです。一年間、早朝5時起きだと窮屈でストレスもありますので、レースまでの4~5カ月は続けますが、レースが終わったら、一旦トレーニングの量を減らし、夜遅くまで起きていてもいいようにしています。たまに友達とお酒を飲んだりするし、そういう時間は楽しく過ごしたいですし」
レースのスケジュールに合わせて、一年の中でも生活やトレーニングのリズムを変えてバランスを保っています。また、優先順位をつける際には、やらないこともご自身の中で決めているとのこと。現在では緻密なマネジメントに秀でている矢崎さんも、試行錯誤を経て、現在のスタイルに行き着いたそうです。次回は矢崎さんならではのコーヒーカップの選び方についてお聞きします。(後編は7月10日公開予定です)
矢崎智也
北海道出身、現在は東京・高尾在住。コーヒーロースターにてセールス・マーケティング業務に従事した後、2024年に高尾でコーヒーショップ〈BOREDOM〉を開業。
100kmを超える距離のトレイルラインングレースに挑戦することをライフワークにしており、仕事と家庭とトレイルランングのバランスを保つことを大切にしている。
最近では、ランニングにまつわる文章の寄稿やポッドキャストでの発信、マラソン大会の企画・運営など、走ること以外での表現方法を広げている。
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