胆嚢結石の予防と治療(『中華医薬』に学ぶ実際の症例4)
ここ数年、メディアの影響で小食、粗食がブームになっており、1日1食が良いと主張する人もいれば、1日2食が良いと主張する人もいる。3食は獣、2食は人間、1食は聖などと言う人もいる。インドには食事を一切摂らず、「私は太陽を眺めているだけで生きてゆける」と主張する人もいるらしい。体を浄化するという断食も、根強い人気がある。
確かに大食、過食、偏食は心身を狂わせ、健康を損ねる可能性が高い。しかし常軌を逸した小食も、健康を損ねる可能性がある。仙人は霞を食って生きていると言われているけれども、あくまでそれは仙人の話であって、常人はちゃんと食べなければ生きてゆけない。今のところ、美食を避け、粗食を基本とし、朝晩は少な目、昼をメインにした食事法が最良だと考えられるが、現代人の生活環境、生活形態は様々であるから、メディアに惑わされず、各々が最良の食事法を見つけるしかないだろうと思う。
「肝胆相照」という故事成語があるとおり、肝臓と胆嚢には密接な関係がある。胆嚢に問題が出た場合、肝臓の解毒機能や胆汁による脂肪の消化に影響が及ぶ。人体において胆嚢は重要な臓器である。
《Zさんの症例》
44歳のZさんは北京の飲食業の会社の会計をしている。彼女は入社以来、真面目に働いてきたが、2015年の初め、突然の腹痛に襲われ、まともに働くことが出来なくなってしまった。彼女は2015年に入ってから、ずっと胃の不快感を感じていた。最初の数か月は1~2週間に1回痛んだ。それはまるで、腹の中を紙やすりで削られているような痛みで、立っていることも座っていることもままならなかった。言葉では表現しがたい痛みだった。その後、痛みが数時間続くようになったため、会社に休暇をもらい、しばらく自宅で休養することにした。特につらかったのは空腹時の右上腹部の膨満感で、少し何かを食べると治まった。
当初、彼女は仕事が忙しかったため、食事時間が不規則になっていたのが原因だと思い込んでおり、数日休めば好転するだろうと考えていた。しかし時間が経つにつれ、症状は耐え難いほど悪化していった。1日中ずっと痛むようになり、背中も痛み出した。彼女はまともに働けないだけでなく、まともに眠ることさえ出来なくなった。ベッドに横たえて、体の向きを変えても、痛みは消えなかった。彼女はついに耐えられなくなり、病院で検査を受けることにした。
《医者の誤診》
医者は彼女の生活習慣について、いくつか詳細に問診した。問診を終えると、医者は「胃炎でしょう」と言った。そして、胃炎を緩和させる薬を処方し、自宅で服用するように言った。彼女は自宅に帰って薬を飲むと、少し症状が緩和された気がした。痛む時間が減ったようだった。彼女は薬を飲み続ければ治るだろうと思った。しかし、しばらく薬を飲み続けたところ、食欲不振になり、再び右上腹部が痛み出した。
胃炎は多くの原因によって起こる胃粘膜の炎症で、上腹部の不快感、鈍痛などの症状がみられる。通常は消炎鎮痛薬を服用することで痛みが緩和される。では、なぜ彼女は数か月も薬を服用したのに、炎症が治まらず、右上腹部痛や食欲不振が出たのであろうか。
おかしいと感じた彼女は、再び病院へ行き、自分の体に何が起こっているのかをちゃんと確かめることにした。超音波検査をすると、胆嚢結石が見つかった。医者は、胃痛や背部痛はこの結石が原因であろうと言った。しかし、なぜ彼女は胆嚢結石が出来たのだろう。彼女は非常に驚いたが、特に珍しいケースではなかった。
《Wさんの症例 》
Wさんは24歳だ。彼は3年前から突然の腹痛に襲われ、大学生活を楽しく過ごせていない。夏のある夜、冷えたビールを2本ほど飲み、その晩、帰宅後に体に異常感が現れた。22時頃に腹が締め付けられるように痛んだので、病院へ行くことにした。しかし、一般の外来受付時間はとうに終わっており、急患として診てもらうため、急いで手続きをとった。医者は飲酒による胃炎だろうと診断して、手早く数種の消炎剤を処方しただけだった。彼は、胃炎の治療は時間がかかるものであり、特別な治療法はないと信じていたため、その後は悪い生活習慣を改め、規則正しい生活をするように心がけることにした。同時に処方された薬も飲み続けることにした。
彼は5年ほど、朝食をほとんど食べない習慣を、依然気にしていなかった。腹痛は冷たいビールを2本飲んだことが原因だと思い込んでいた。しかし、事態は彼が考えているほど簡単ではなかった。思ってもみなかったことが起こったのだった。
2012年の10月頃、彼が同級生とパーティーへ出かけた時の話だ。会食を終えて、帰宅した後、深夜2時頃にまた腹痛が始まった。それは表現しがたいほどの痛みで、朝まで眠れなかった。痛みでベッドをのた打ち回った。やっとのことで夜が明けると、彼は急いで病院へ行き、自分の体に何が起こっているのかを検査してもらうことにした。超音波検査の結果はさらに彼を驚かせるものだった。胆嚢炎および胆嚢結石であると診断された。彼は当時21歳で、まさかこんなことになるとは思わなかった。彼は中高年がなる病気だと思っていたから、自分の状況を受け入れることが出来なかった。
胆嚢結石は40歳以降に発症しやすい胆嚢疾患の一種だ。では、なぜ21歳の彼に胆嚢結石が出来たのだろうか。胆嚢結石と診断したあと、医者はWさんの生活習慣について詳しく質問した。
ZさんとWさんには共通点がある。まず、二人とも最初は胃炎と診断され、最終的に胆嚢結石だと診断された。胃炎と胆嚢結石を発症した時、現れる症状にはどんな違いがあるのだろうか。胃炎と胆嚢結石の痛みは似ているため、一般的に胃炎と胆嚢炎は混同されやすい。
《胃炎と胆嚢炎の見分け方》
では、医者はどのように区別するのだろうか。胆嚢は消化器系において重要な臓器の1つだ。もし胆嚢の中に結石ができた場合、胆嚢が収縮すると結石が胆嚢頸部に移動するため、右上腹部に張るような痛みが現れる。ひどい時は締め付けるような痛みが出る。胃炎の場合、胃が張るような痛みや、胃もたれ、げっぷがみられるが、通常は特に目立った症状は現れない。
自宅で腹痛がなかなか治まらない時は、胃と胆嚢のどちらに問題があるか調べる簡単な方法がある。まず、胆嚢の体表投影点を探す。右季肋部(肋軟骨)の下縁と腹直筋の外側の間で、臍から3~5指頭くらい右斜め上方の部位を胆嚢の体表投影点とする。ここを、深く息を吸いながら親指で押し、突然呼吸が停止するほど痛むようであれば、これをマーフィー徴候と言って、胆嚢に問題があるとみる。通常、胃炎にはこのような徴候はみられない。
*深吸気時には肝臓が下降して胆嚢に触れるため、疼痛を感じて吸気を止める。急性胆嚢炎の古典的かつ理学的診断法。
《朝食と胆嚢結石の関係》
実は、Zさんの家族には胆嚢結石患者がいた。彼女の兄も、10年前に胆嚢結石の手術を受けていたのだ。兄と妹が罹患しているということは、胆嚢結石には遺伝性があるのだろうか。また、Zさんの兄はどのような経緯で胆嚢結石になったのだろうか。
「兄は毎日お酒を飲んで徹夜していて、基本的に朝食は食べていないと思います。夜型で明け方になって就寝するため、いつも起きるのが昼の11~12時くらいです。兄は大学を卒業してから、ずっとそんな生活だったと思います。」とZさんは言った。彼女は兄と違って、徹夜したこともなく、自分の生活習慣に偏りはないと思っていた。では、なぜ彼女は胆嚢結石を患ったのだろうか。彼女との雑談を通して、あることがわかった。以下は最近1週間の彼女の食事の内容だ。一定の傾向があるのがわかるだろうか。
月曜日(朝食:なし、昼食:土豆牛肉、夕食: 排骨炒豆角)
火曜日(朝食:なし、昼食:烧茄子、夕食:炖牛肉、酸菜白肉)
水曜日(朝食:なし、昼食:猪肉粉条、夕食:西兰花、炖鸡翅)
木曜日(朝食:なし、昼食:魚、夕食:麺類)
金曜日(朝食:なし、昼食:红烧鸭架子、夕食:外食)
つまり、朝食はほとんど食べておらず、夕食の量が多いのだ。彼女は今の会社で働き始めて7~8年になるが、この仕事に就いて以来、時間通りに朝食をとったことがない。朝食は食べないことの方が多い。また、比較的脂っこい料理ばかりで、昼食も夕食も時間が一定しておらず、1日3食を決まった時間に食べたことがなかった。では、Zさんと彼女の兄が胆嚢結石になったのは、朝食を抜いていたことに原因があるのだろうか。彼女は、朝食を抜いていたことに、胆嚢結石の直接の原因があるのではないかと考えた。
《李月廷医師の考察》
北京市中西医結合医院普外科(一般外科)の主任医師である李月廷医師は、「朝食を食べないことは、確かに胆嚢結石の原因の1つにはなり得ますが、原因はそれだけではありません。結石が出来る原因は主に3つあります。1つ目の原因は、胆汁の中のコレステロールや胆汁色素などの濃度がひどく高くなって、胆石の基礎が出来ることです。しかし、コレステロールの濃度が高くなったとしても、結石が出来るとは限りません。つまり、豆乳を豆腐にするにはにがりを入れなくてはなりませんが、胆汁の中にもにがりのように作用する成分があり、それが胆汁の中の有形成分の沈殿、結石化を促すのです。2つ目の原因は胆嚢の機能そのものにあります。もし、胆嚢の機能が非常に良ければ、胆汁の有形成分が溜まっていたとしても、胆嚢が収縮したときに、胆汁が十二指腸から体外へ排出されます。つまり、胆嚢の働きが正常であれば結石を予防出来ますが、胆嚢の働きに問題があると、結石が形成されやすくなります。3つ目の原因は、朝食をとらないことです。朝食を食べないと、空腹時間が非常に長くなります。例えば、夜から次の日の昼まで食べないでいると、肝臓で生成された胆汁が胆嚢の中でどんどん濃縮されます。そうすると、胆汁の中の有形成分の濃度も高まります。すると、胆汁の中のにがりのような成分が作用する時間が長くなるため、沈殿する成分が増加します。もし、このような状態で食物を摂取すると、胆嚢の働きが低下していて沈殿した成分を排出しにくくなるため、結石が出来やすくなるのです。したがって、朝食抜きの生活は、結石形成を促す1つの要因になり得ます。自分の健康をコントロールするためには、朝食は食べた方が良いのです。」と主張する。
食事時間の間隔が長ければ長いほど、胆汁の分泌量は増える。しかし、朝食をとることで、夜間に濃縮されていた胆汁を排出することが出来る。したがって、年齢が若くても、朝食を抜くと胆嚢結石の発症率が上がる。実際に、最近では年代を問わず、胆嚢結石の発症率が上昇している。若者は仕事のストレスが増大し、生活リズムが速くなっており、忙しすぎて朝食を食べることが出来る人は極わずかだ。さらに、昼間も忙しいため、昼食は適当に済ませ、夕食はタンパク質や脂肪が多いメニューにしがちだ。また、運動する時間もないため、若いうちから肥満や高脂血症になることがある。最近の子供によくある脂肪肝はその一例だ。つまり、朝食抜き、高コレステロール食品の過剰摂取、食物繊維の摂取不足、運動不足などが、近年の若者の結石を助長させているのだ。
《夜間痛の理由》
胆嚢結石に夜間痛が多くみられるのはなぜだろうか。就寝して体を横にすると、結石は胆管へ移動する。夜に疼痛が出やすいのは、これが原因だ。つまり、体位の変化によって、結石が胆嚢頸部に移動したり、胆管を塞いだりして、痛みが出る。日中に激しい痛みが出にくいのは、結石が胆嚢の底にあるからだ。
《Zさんのその後》
Zさんは、医者に「胆嚢が機能していないから、胆嚢を摘出したほうがいい」と言われた。しかし、彼女は自宅へ帰って夫と相談し、「胆嚢は本来必要があるから体に備わっているわけで、無暗に摘出するべきではない」と決断した。実際に、胆嚢は小さな臓器ではあるが、体内においては非常に重要な働きをしている。胆嚢は胆汁を蓄えるだけではなく、食物の消化を助ける作用がある。
結局、彼女は胆嚢を摘出しないで済む治療法を探すことにした。いくつもの大病院を駆け回った。ある病院で入院して検査した結果、彼女の胆嚢の機能は健全で、胆嚢の中の結石を取り除けば、胆嚢を摘出しなくても良いということがわかった。そして彼女は8時間におよぶ手術によって、胆嚢の中の結石を全て取り除くことに成功した。
《胆嚢摘出のリスク》
胆嚢を摘出すると、人体には多くの影響が現れる。その中で最も多くみられるのが、消化機能への影響で、消化不良や膨満感、下痢などが現れるようになる。他にも、胆管結石のリスク増加、逆流性胃炎、大腸癌のリスク増加、非アルコール性脂肪肝、心臓・脳血管障害のリスク増加などがある。確かに、胆嚢に病巣があるならば、胆嚢を摘出しなければならないケースもある。しかし、胆嚢が機能していて摘出する必要がなければ、摘出しない方が良い。
《手術の歴史》
1867年にはアメリカの外科医が30歳の女性患者の胆嚢を切開して、結石を取り出している。しかし後に、この方法は再発率が80~90%であることがわかった。1882年にはドイツの外科医が臨床観察や動物実験、解剖学の研究を経て、世界で初となる胆嚢摘出手術を実施した。その後、胆嚢摘出手術が広まったが、医療設備が飛躍的に発展すると、1987年にはフランスの産婦人科医が、患者の手術中に胆嚢結石を発見し、腹腔鏡を使って胆嚢を摘出した。手術痕が非常に小さく、回復も早かったため、その後は腹腔鏡手術が全世界に広まった。現在、アメリカでは毎年50万例以上の胆嚢摘出手術が行われている。しかし、どのような手術が適合するかは患者によって異なるため、超音波検査などによって専門家が総合的に判断し、どの手術にするかを決めなくてはならない。
《術後の管理》
手術で胆嚢の中にある結石を取り除いたとしても、肝臓が分泌する胆汁は変わらないため、再び結石が出来る可能性がある。そこで中药(≒漢方薬)を用いて、再発を予防する必要がある。北京市中西医結合医院中医内科の主任医師である徐春凤医師は「臨床でよく使われるのは筚拨(コショウ科の植物である筚拨の穂)、金钱草、柴胡 などの疏肝利胆作用がある药材(≒生薬)です。」と言う。
筚拨には温中散寒、行气止痛の効果がある。最近の研究では、筚拨に含まれる胡椒碱(ピペリン)に、高コレステロール食品に起因する胆嚢結石を予防する効果があることがわかっている。また、血中総コレステロールとLDLの値を下げる明らかな効果もある。さらに、免疫調節作用(抗腫瘍、抗疲労、抗うつ、抗潰瘍)があり、心筋の保護作用もある。そのため、臨床では疏肝利胆と免疫調節を備える中草药(≒漢方薬)としてよく用いられている。
《胆嚢結石になりやすい人》
胆嚢結石になりやすい人はどんな人だろうか。胆嚢結石はよくみられる病気で、人種や生活環境、生活習慣と密接に関係している。罹患者には「5F」という5つの特徴がみられ、Forty(40歳)、Fat(肥満)、Family(家族歴)、Female(女性)、Fertility(多産)に当てはまる人が罹患しやすいことがわかっている。
胆嚢結石は年齢が上がるほどに罹患しやすく、70~80歳の20~30%が胆石症に罹っていると言われている。肥満の人は、肝臓でコレステロールの合成を促す特殊な酵素が生成されるため、コレステロールの合成が増えると、胆汁の中のコレステロールが増え、結石が形成されやすくなる。家族歴に関しては、1995年にアメリカで研究され、ラットに結石の形成に関係する遺伝子が存在すること発見されている。世界的にみて、女性の胆石症の発症率は男性の2倍である。これは、女性特有のホルモンに関係していると言われている。また、子供を沢山生んだ女性は、胆嚢結石の発症率が高いことがわかっている。
中国国内における胆石症の発症率は、1995年の時点では7%であったが、現在は10%で、年齢に関わらず発症率が上昇している。2011年の時点では、結石とポリープを含む胆嚢の良性疾患の発症率は15%程度だった。
《結石に良い食事》
まず、バランスのとれた食事が重要だ。特に、ビタミンAが多く含まれる人参、トマト、キャベツなどの緑黄色野菜や、バナナやリンゴなどの果物を食べると良い。高コレステロール食品である動物の心臓、肝臓、脳、腸、卵の黄身、ピータン、魚の卵、チョコレート、肉の脂身、揚げ物は避けるようにする。
また、食の安全衛生にも注意し、食事は定時定量を心がけ、夕食から朝食までの時間が空き過ぎないようにする。暴飲暴食は胆汁を大量に分泌させ、胆嚢が強烈に収縮して胆嚢炎になる可能性があるため、避ける。さらに、適度な運動も必要で、長時間の座位は避ける。毎日良い気持ちで過ごし、感情を安定させておき、過労や過緊張は避ける。