「パン屋限定、入居者募集。」まだ見ぬパン屋にラブコールを送った大家さんの目論みとは @大田区蒲田 SONGBIRD BAKERY
●「この物件にパン屋さんを呼ぶ」と心に決めた大家さん
誰かに物件を貸して家賃収入を得る「大家さん」。世の中の大家さんは、「どうしたら自分の物件を借りてもらえるかな」と日々考えています。
そんな大家の一人である茨田(ばらだ)さんは、一つの作戦として、自身の所有する賃貸マンション1階の空き区画の募集に「パン屋さん限定」というユニークな条件を設けたことがあります。
このように入居者に「条件づけ」してしまうと、合致する入居者が現れるまでの空室期間が長引くリスクもあります。
しかし、茨田さんの視点は長期的でした。「そこに素敵なパン屋さんが入ってくれれば、まちのみんなにも喜んでもらえるだろうし、このマンションの住居区画の人気も高まる可能性がある」と、市場性と地域性を十分に加味した上で、1階空き区画の入居条件をパン屋に狭めてみることに。
そんな大家・茨田さんの目論みと、開店後ずっと行列の絶えないパン屋さん「SONGBIRD BAKERY」の開店エピソードをご紹介します。
●「このマンションの1階を『小さな商店街』にしたい」
舞台はこちら、大田区にあるマンション1階の区画。茨田さんには、「こんなお店に入ってほしい」というイメージがありました。
「それは何屋さんだろう」という話合いを東京R不動産の担当者としていくなかで、自然と浮かんだのが「パン屋さん」という仮説でした。
●調査で見えた「パン屋空白地帯」というポテンシャル
早速、マンション周辺の「パン屋調査」をしたところ、駅前にチェーンの店はあるものの、個人経営でクリエイティブな雰囲気を持つパン屋は見当たらないことが発覚。「ここは、パン屋開業の穴場では?」と、仮説が現実味を帯びてきました。
でも、パン屋さんなら何でもいい訳ではなくて。入ってほしいのは、店の前を通り過ぎるたびにちょっと気になってしまうような、そのパンのことを考えると胸が踊るような...そんなパン屋さん。
思い描く「ニュアンス」を伝えるため、茨田さんと東京R不動産の担当者が何度も話し合い、見えてきたのが「アトリエ系パン屋さん」というキーワードでした。
茨田さん「『アトリエ系』と付いたら、来てほしいパン屋さんのニュアンスがうまく伝わる気がして、これは発明だ!と思いましたね」
●東京R不動産で、パン屋さんへのラブコールを発信
こうして、東京R不動産のサイトでテナントの募集がスタート。募集コラムには、東京R不動産スタッフの正直な気持ちが綴られました。
さあ、あとはアトリエ系パン屋さんの申し込みを待つのみです。
●お手製パンフレットで、ラブレター作戦
入居者募集を開始すると、「パン屋以外の店舗だけれど相談できますか」といった問い合わせもありました。
しかし茨田さんは、「大変ありがたい話だけれど、もう少しパン屋さんを待ってみたい」と、運命のパン屋を夢見て募集を続けることに。
そうしてしばらく募集を続けましたが、「アトリエ系パン屋さん」からのお問合せは数が限られ、申込の検討にも時間がかかりました。というのも「パン屋」は厨房の設備機器など初期費用が多く、開店のハードルが高い業種。「パン屋を開きたい」という人の母数が、そこまで多くないのもまた事実でした。
「いつかは、この『パン屋縛り』を諦めなきゃならないのかなあ...」。そう弱気になってしまってもおかしくないなか、茨田さんも東京R不動産も、まだまだ「パン屋誘致」を諦めません。
茨田さんは雑誌やネットでパン屋情報を収集し、「2号店、または移転先として来てほしい店」を40軒ほどリストアップ。東京R不動産の担当者と手分けをして手作りのパンフレットを飛び込みで渡しに行くなど、積極的な誘致活動も行いました。
●ラブコール中に起こった2つの出来事
そんななか、2つの転機がありました。ひとつは、募集中に世の中がコロナ禍となり「おうち時間」が急激に増えたこと。
その流れで「『都心』や『駅近』だけでなく、『暮らしている家の近く』にも素敵なお店が欲しいよね」という空気が広まり、住宅街の店舗物件にも注目が集まるようになりました。
もう一つは、隣区画にカフェ「SSYET」がオープンし、この建物に店を構えるイメージがしやすくなったこと。(こちらの区画も東京R不動産で募集していました)
こうして洗練されたカフェが入居したことで、建物の路面が華やぐことに。パン屋さんの募集ページでは「おとなりにカフェがオープン!」と、物件の新たな価値をアピールすることにも繋がったのです。
●待ってました、アトリエ系パン屋さん!
こうしてよい機運が醸成されはじめたころ。ついに、待ち望んでいたタイプのパン屋さんから、同時期に複数の申し込みが!
どのパン屋さんも地域に親しまれるお店になりそうで、ひとつに決めるのは嬉しくも苦しい検討でしたが、悩みに悩み抜いて選ばれたのは、「ひとりで独立して初めての店を持ちたい」という本藤さんでした。
「東京R不動産の本を読んで、サイトのことはもともと知っていました」と話してくれた本藤さん。どんな物件を探していたのでしょうか。
「近隣にパン屋が少なくて、近くに公園がある、住宅街の物件を探していました。この物件はパン屋開業に向けたデータなども調べてくださっていて、物件や大家さんにすごく興味が沸いて。実際に内見に来て、直感というか、ここでお店をやるイメージが明確に持てたことが決め手でした」
本藤さんは内見のあと隣のカフェにも寄るなど、このマンションをじっくりと見学して帰られたそうです。
●面談と融資交渉で見えた、お互いの頼もしさ
茨田さんとの面談の際、本藤さんは自作したパンを持ってきてくれました。
茨田さん「アトリエ系のパンって、カチカチで小麦の味がするイメージだったんです。けれど本藤さんは、そういう『キレッキレのパン』も作れるはずなのに、自己主張しすぎない、やさしいパンを持ってきてくれて。このまちに合いそうな、柔和な人柄がよく表れていました」
また、融資交渉に関しては、茨田さんの頼もしさが伺えました。
本藤さん「融資の交渉をする時は、茨田さんが信金さんを紹介してくださって、一緒に担当者に会ってアピールしてくださいました。普通大家さんがそこまでしないと思うので感動しましたし、感謝の気持ちでいっぱいです」
茨田さん「開業したい人が自分だけで交渉するより、大家側が地元の金融機関を通して交渉した方がスムーズにことが運んだりしますから。これも『貸す技術』かもしれませんね」
そうして、ついに待望のパン屋さん「SONGBIRD BAKERY」がオープン。心ときめくパン屋さんをまちの人たちは大いに歓迎し、「このあたりにパン屋さんができてうれしい!」と毎日行列の絶えない人気店になりました。
●「ラブコール」が実を結んだ、大家としての「貸す技術」
所有する物件の区画が空いた際に、ただなんとなく入居者を募集するのではなく、「同じ建物に住む方々へのメリット」や「まちの魅力」といった長期的な目線でパン屋さんを誘致した茨田さん。「東京R不動産は、こうした面倒な募集によく付き合ってくれたなと思っています」と語ってくれました。
茨田さん「東京R不動産のスタッフは、パン屋さんの入居だけでなく"その先"までイメージして、常に俯瞰したビジネス視点で助言をくれました。それに、募集記事の文章も内見時の説明も、『ここに店を出すのってアリかも』と出店者さんたちに思わせてくれるもので。その納得感というか、『詰め』が他の不動産業者と違いますよね」
大家さんにとって大切なのは、募集情報を「とにかく多くの人に」ではなく、「ぴったりな入居者さんの一人に」届けられるかどうか。お互いにハッピーになれるストーリーをしっかり考え、覚悟を決めてしっかり伝える、熱意を持って入居者さんをサポートする、といった姿勢が、素敵な出会いを生み出したように思います。
東京R不動産として茨田さんのラブコールのお手伝いができて、私たちもほっと一安心しています。