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#288 なぜかここで友の悪口
今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。
『当世書生気質」』はいよいよ最終回に突入!任那くんからの手紙を読んでいるところに、倉瀬くんが登場!田の次のことで話があるから、応接所へ来いと呼びつけます。行ってみると、そこにいるのは守山くん。「その後は暫く」と言う守山くん。それに対して…
小町田は礼を返し、
小「こなたにこそ久しく失敬を。」
倉「マアそんな事は後にして、守山君。出ようぢゃアないか。どうせ例の一件は、此処[ココ]ぢゃア話せないヨ。」
友芳「さうですネエ。それぢゃ直[スグ]にでかけませう。……小町田君。少々お話の筋があるが、今直[スグ]に出られますか。」
小「アア参りませう。しかし一寸袴[ハカマ]をはいてきますから。」(トいひつつ小町田はへやのかたへゆく。)倉瀬はあとを見送りて、
倉「相替らず謹直[キチョウメン]な男だ。あの位堅い男だが、田の的[タノテキ]にゃア」(トいひかけしが急に守山のかほをながめてまのわるさうに口をつぐんでだまつてゐる。)守山は笑[エ]み含みながら、
友「放蕩遊惰[ホウトウユウダ]といふ点からいやア、ずっと小町田より甚しいのが、随分学校にもあつたであらうが、真面目で一女子に溺れたばかりで、遊蕩連の領袖[リョウシュウ]のやうに、人の思はれたも小町田の不幸だ。ダガ倉瀬、学校の気風はよほど替つたネ。この頃ぢゃア、先刻[サッキ]から気をつけて見るに、出入[シュツニュウ]ともに袴姿[ハカマスガタ]だネ。我輩がゐる頃と違つて、被流連[キナガシレン]なんぞは一個[ヒトリ]も見えない。全体被流[キナガ]しといふ容姿[ナリ]は、日本でも略服だから、実に見っともない卑陋[ビロウ]な姿[ナリ]だテ。品柄[シナガラ]は粗末でもいいから、学生だけはどうか洋服にしてしまひたいネエ。」
倉「我輩も実はその説だテ。此間[コナイダ]も学生服装論について、須河が演説をしたところが実にをかしい事があつた。その訳はどうかといふと、須河の演説の主意といふのは、別に不条理でもないやうであつたが、内々[ナカナカ]珍奇的烈の理由があつて、須河が桐山に悪[ニク]まれてゐるんで、その演説をした日なんざア、あとでやられた事やられた事。須河めさんざんに桐山にやられて」
友「ハハアやられたとは。」
倉「ナニさ、須河の議論の根拠は例の如く盗物[ヌスミモノ]さ。ところで桐山めが意趣があるから、わざとその本拠[オリヂナル]を荷[カツ]ぎ出してネ、ただ今須河氏のいはれたところは、一分[イチブン]は某[ナニガシ]の議論だ、一分は誰の説だ、と一々その出所を表示した上で、めちゃめちゃに駁撃[バクゲキ]をしたが、須河め、一言弁駁[ベンバク]も出来んで、面[ツラ]を真赤にして引込んだが、実に依然として意気地[イクジ]のない男さ。」
ということで、この続きは…
また明日、近代でお会いしましょう!