天ぬきで軽やかに温まる。
本格的に冬の寒さがやってきましたね。夏の頃には、毎日暑いなぁ暑いなぁといっていたというのに、そこからほんの数か月でこの気温。
四季のある国に生まれ育って、わかりきっていることなのに、季節ってちゃんと移り変わるんだなと、毎年おなじことを思ったりしています。
♨寒い夜のほっとする味
そんなこんなでこの季節になると、外出から帰った夕飯は、温かいものが食べたくなります。おでんにシチュー、鍋物そして麺類。
特にうどんやおそばの出汁の香りただよう熱々のおつゆは、ただあったかいだけではなく、どこかほっとする気分になりますよね。
ただ、夕飯の時間が遅くなったとき、麺類をお腹いっぱい食べるのはちょっと罪悪感もあるし、なにより翌朝胃もたれしたりするかもなと思ったり。そうそう、年末年始のお休みの間しっかり食べたぶん、少し胃を休めなくては。
そんなとき、ふとしたことで知ったのがこれ。
🍤天ぬきで温まろう
“天ぬき”というこのメニュー。
つまり、天ぷらそばのそば抜きです。
ちょうど、関西でいうところの肉吸いを思わせるひと品で、麺抜きということはもちろん、軽く食べられる。これはいい、これで温まることにします。
まずは天ぷらを準備。
🍤天ぷらの材料
・甘長とうがらし
・玉ねぎ
・にんじん
・えのき
・天ぷら粉
・水
とうがらしはそのまま1本揚げ、それ以外の材料はかき揚げにすることにします。
破裂防止のため、竹串で数か所穴を開けたとうがらしを衣にくぐらせます。
あとは衣がカリッと固まるまで揚げるだけです。
かき揚げは、残った衣を余すことなく使うエコメニュー。
玉葱は薄切り、にんじんは太めの千切りにして、えのきは石づきを取ってほぐしておきました。トッピング用に刻んでおいたねぎもちょっと加えることにします。
全体に生地をよくからめたら、準備OK。
スプーンですくって、油跳ねに気をつけながら、静かに揚げ油に落とします。
底になった面が固まったら返して、両面しっかりと揚げていきます。
うん、いい感じ。余分な油はしっかり切りましょう。
♨盛付けはもちろん丼
さあ、盛り付けです。まずは丼にかき揚げをスタンバイ。
あくまで天ぷらそばのそば抜きなので、器は丼を使用します。
上からそばつゆをかけます。
甘とうがらしをトッピング。ちょっと立たせる感じが、見た目にもアクセントになっていいですね。
仕上げにねぎをたっぷり、七味をぱらぱら。どうでしょう、これが天ぬき。
♨肉吸いに通ずるひと品
天つゆにつけて食べる、ふつうの天ぷらとなにがちがうの、と思うかもしれませんが、たっぷりのそばつゆに浸ったかき揚げをひと口食べてみればわかるはず。
つゆの染みたかき揚げは、単体の天ぷらではなく、まさにあの天そばの天ぷらの味がします。そして、つゆをひと口飲めば、それは間違いなく天ぷらそばのおつゆの味。
衣の油が溶け出したそばつゆの味は、ほかのどんなおそばの汁とも違う、あの天そば味になっているのです。
温まるけど、お腹にたまらない軽さのこの感じ、まさに大阪の肉吸いを思い出すスタイルです。
🍤天抜きの諸説いろいろ
ところで、肉吸いは肉うどんのうどんを抜いて、お吸い物になってるから肉吸い。だとしたら、なんで天ぷらそばのそば抜きであるこのメニューが“天ぬき”なんでしょうね。
最初にこの名前を聞いたとき、天ぷらそばから天を抜くということは、ただのかけそばになるのでは、と思ったのですが、実態はその逆。そばのほうを抜いています。
これはどういうことなのか。色々調べてみましたが、諸説あるようです。
諸説その①
まずはこんな説。
天ぷらそばに限らず、台座になるそばに対して、トッピングを“天”と呼んだ。その天を抜き取ってそれだけを食べるから天ぬき。
なるほど。天ぷらを抜き取ったから名前は天ぬき。しかし食べるのはそばではなく、抜き取った天ぷらのほうを食べるという逆転の発想。
そもそも、天抜きが天ぷらを抜いたあとのそばだとしたら、それってきつねそばだろうが、コロッケそばだろうができるものはおなじです。だって残るのはそばだもん。
でもこれであれば、おなじかけそばにならずに済みますね。きつねぬきはそばつゆに浸したお揚げさん、コロッケぬきはそばつゆに浸したコロッケとなります。どれもあったか系のおつまみとして美味しそうです。
諸説その②
これは省略が時を経て、どんどん進化した説。
「天ぷらそばのそば抜きお願いします」
↓
「天ぷらそばを抜きでお願いします」
↓
「天ぬきお願いします」
気がつくとこれで、通じるようになったという説のようです。
初訪問のお店でいきなり使えるものではなさそうですが、常連さんがお店でいつも特注メニューとして頼んでいれば自然と通じるようになりそうです。それを周りのお客さんが真似してオーダーするようになれば、いつの間にか定着しても不思議ないような気がします。
すっかり死語になりましたが、チョベリバとか激おこぷんぷん丸の意味が今でも通じることを思えば、いつの間にか定着し広まった略語とういうこの説もアリかもしれませんね。
なんにしても寒い日の遅めの夕飯になったときの天ぬき。少し胃を休めたいお正月明けのこの時期に、軽やかな食べ口で温まれておすすめです。通好みの蕎麦屋の裏メニュー的なところも、ちょっと粋な感じがしていいなぁと思います。