夏は名残る、鰻のタレで肉を焼く。
焼肉。きっとみんな大好きで、人気のメニューだと思いますが、不思議に思うことがあります。焼肉って、冷静に考えると2パターンありませんか。
🥩焼肉のタイプA
ひとつはいわゆる焼肉屋さんで食べる、網で焼くやや厚切りのお肉。あらかじめタレが揉み込んであったり、タレを付けて食べたりする、カルビにハラミにロース。レモン汁で食べるタン塩に、濃厚な味付けのホルモン。
家で食べるときは、きっとホットプレートで焼くでしょう。おうちごはんとしては、お鍋に近い性格のあるメニューだと思います。みんなで囲んで、食べながら調理して、調理しながら食べるあれです。
🥩焼肉のタイプB
もうひとつの焼肉は、それとは違い1人分がお皿に盛られてます。そう、定食屋さんの焼肉定食、洋食屋さんなんかでもランチメニューにいたりしますね。
前者の焼肉は、子どもの頃からごちそうのイメージが強くて、母の、今夜は焼肉やでという言葉も、父の、明日はみんなで焼肉食べにいこか、という誘いも心の浮き立つ言葉でした。I LOVE焼肉。
それと比較して、もうひとつの焼肉はというと。
どちらかというと、自分の中では地味な印象。だって、定食屋さんにはハンバーグ定食もあれば、お刺身定食もあるし、洋食屋さんにいけば、ビーフシチューもあれば、ミックスフライもビーフステーキもあります。
薄切りのお肉をちゃちゃっと炒めた感じの焼肉なんて、自分でもつくれそうだし、そもそもおうちごはんの炒め物とどない違うねん、っちゅう話ですわ。
なので、外食してもメニューとして、選ぶことはなかったんですよね。
👣くり返し通うと食べる
それが、この数年の間に休日の習慣になった、ウォーキング&外食ランチのおかげで、がらっと変わったんです。
というのも、たしかにこのスタイルの焼肉は、使われる食材という観点から見ると、薄切りのお肉を炒めただけで、プラスしても玉ねぎくらいのシンプルさ。あっちの定食屋で食べようが、こっちの洋食屋で食べようが似たようなものと考えて然りです。
なので自身のチョイスにもはいることはなかったんですが、とにかく新規開拓の日々だった休日ランチのお店の中に、そのうちお気に入りができてきます。するとそのお店には何度か通うわけで、まずはハンバーグ、次にミックスフライ、その次に…と食べ進めて、ふと気がつくと、あれもこれも既食メニューということになります。そうして、いつの間にか焼肉にたどり着いてるんですよね。
そんな感じでいくつかのお店で、焼肉ランチを食べるうち、ふと気づくことがありました。
🤔ラーメン百花繚乱、焼肉も
これ、ラーメンみたいなもんなんじゃないか。
唐突ですね。なにをいってるのか、わかりませんね。要点をまとめると、こういうことなんです。
ラーメンって、いろんな種類がありますけど、その種類を分けているのって、太いのか細いのか平打なのかみたいな麺の違いもありますが、もっとも大きな特徴、そして個性になっているのは、スープとタレではないでしょうか。
鶏ガラなのか豚骨なのか、そこに加えるのが煮干しだったり、昆布だったり。そしてタレのベースが醤油なのか、味噌なのか塩なのか。この組み合わせで、ラーメンは百花繚乱、天地無数の存在なのだと思ったんです。
💡オリジナルの味付けだから
そして焼肉。これもそうなんです。
家でもつくれるじゃんと思っていた、焼肉という料理ですが、食べるとここの焼肉ランチはおいしいなとか、ここはやっぱハンバーグがよかったなとか、そのお店のメニューの中で、自分にとって焼肉が上位だったり、下位だったりするんですよね。
おなじ焼肉…すなわち肉を炒めただけのメニューなのに、なんでそうなるの。その理由がすなわち、味付け。つまり、お肉を炒めるタレにあったわけです。
考えてみれば、もし自分が洋食屋さんのシェフだとするならば。お店自慢の1週間煮込んだデミグラスソースがあれば、それを醤油やみりんと合わせたりしたくなりますよね。それでお肉焼きたくなりませんか。だって、それが当店の味ですもん。
はい、この時点で他店にはないオリジナルソースの焼肉になること確定です。
こうして、薄切りのお肉をちゃちゃっと炒めだけに思えた、焼肉というメニューが、実はお店ごとの味を持つ、特別な存在だということに気づいたのです。
😲これはすごい焼肉
そんな焼肉の中でも、これはすごいなと思ったひと品があります。
ぱっと見てもどこがすごいのか。さっぱりわからない。普通の焼肉ランチのひと皿にしか見えません。
でもね、これすごいんですよ。このスタイルの焼肉の決め手が、お店ごとの味付けだとするならば、これは各お店、唯一無二の味なんです。
材料はこのとおりシンプル。豚肉と玉ねぎ。タレをからめる料理なので、玉ねぎは繊維を断つ水平方向に切り分けます。そのほうが、玉ねぎ自体がしっかりと味を吸ってくれます。
💧我が家に夏が名残ってた
そしてここで当店無敵のタレが登場。
これ。わかるでしょうか。当店…もとい、我が家の夏の名残。
そう、鰻のタレです。余りがちですよね。
でも、よく考えたら甘辛風味の醤油ダレ。焼肉に合わないわけがない。ちょっとしたヒントもあって、これで焼肉をつくろうというわけです。
豚肉と玉ねぎを焼いていきます。
焼色がついてきたら、さあいくぞ。
鰻、うなぎ、ウナギのタレ。
じゅわーっ。
しっかりとからめながら、炒めます。立ち昇るタレの香り。たまりません。鰻って、お店から流れ出てくる煙とタレの香りに吸い寄せられますもんね。
いい色になりました。お皿に盛りましょう。
付け合せは、千切りキャベツに目玉焼き、赤スパ。洋食屋さん風のひと皿です。
😋タレに詰まった無敵の個性
どうですか。うん、いい色、てりってりです。
この焼肉、なにがそんなにすごいのかって、鰻のタレですからね。
洋食屋さんの焼肉ランチ、定食屋さんの焼肉定食、その味の個性とお店の魅力がタレに詰まっているのだとしたら。
鰻のタレって、継ぎ足し継ぎ足ししたものを、お店ごとに大切にしてるって聞きますよね。
父の代、祖父の代、曽祖父の代。10年、50年、100年。そのお店が、暖簾を掲げはじめたのは、はたしていつのことか。
創業天保◯年。江戸時代から守り続ける老舗の味。こんなキャッチフレーズも、浮かびます。
もしそんなタレで味付けした焼肉だとしたら、もう絶対無敵の個性ではないでしょうか。
実はこれ、実際に鰻屋さんのランチメニューにあったんですよ。鰻のタレで焼いた焼肉ランチ、というメニューが。地元の名店的なお店だったので、間違いなく伝統のタレ。すごくないですか。ある意味、究極の焼肉ランチだと思いました。
ちなみに今回のうなタレ焼肉に使ったタレは、スーパーで買った鰻のタレの残りなので、歴代の店主が守り抜いたうんぬんかんぬんなタレではないと思いますが、できあがった焼肉はとてもおいしかったです。