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ア・ハードデイズ・ランチタイム


💻️リモートワーカー・ライフスタイル

その日はバタバタとした1日だった。

在宅勤務にも慣れてきて、自分のペースで仕事をできるようになってはいたけれど、それでもミーティングが続くと、どこかにしわ寄せがきてしまう。

そもそも、オフィスで顔を合わせていた頃なら、ミーティングをセットする前に、なにかしらひとことふたことのコミュニケーションがあり、それからスケジュールが決まっていた。

それであれば、ある程度こちらの都合も反映されたスケジュールになるのだが、リモートワークではそんな配慮すら、排除するのが効率的だとでもいうんだろうか。

朝起きて軽く30分ほど、家の近くをウォーキングして、そしてシャワーを浴びてPCの電源を入れる。これで勤務がスタートできる環境には、文句はない。

人だらけの電車に1時間近く乗る、通勤なんてものがなくなったのは悪いことじゃない。

📆ア・ハードデイズ・ランチ

とはいえ、きょうのスケジュールはハード過ぎた。朝早めにスタートしていたおかげで、デイリーの業務に見通しはつけられたが、9時半から30分のWebミーティング、立て続けに10時から60分を2本。

ようやくWebミーティングアプリを落として、ローカル環境での作業に戻ったかと思ったら、次は13時からだ。

リモートワークの日は、12時すこし前の混みはじめる前の時間を狙って、自宅の近くの飲食店にランチを食べにいくのが気分転換のひとつになっているのだが、すでに12時15分。きょうはそんな余裕はなさそうだ。

ランチの時間を遅らせるというのもひとつの選択肢だが、次のミーティングが終わるのは14時。そこまで我慢できそうにない。

となると、おのずとこうなる。

冷蔵庫の中身を確認して、手早くつくれるメニューを考えた。

そうだ、これでいこう。きょうはツナのパスタにしよう。味付けはそうだな、ちょっとアレンジして、アジアっぽいのがいいかも。このところ暑いし、そういう気分だ。

🍝アジア風ツナパスタのレシピ

🍝材料
・カッペリーニ
・ツナ缶
・にんにく
・えのき
・しめじ
・ごま油
・卵黄
・青ねぎ
・コチュジャン
・中華スープペースト
・こしょう

えのきとしめじをほぐします。

スライスしたにんにくと一緒に、きのこをごま油で炒めます。

にんにくの香りが立って、全体にごま油がなじんだら、汁けを切ったツナを合わせます。

コチュジャン、中華スープのペーストをいれて、全体にからめながら炒めます。

味がよくなじんだら、火を止めます。

パスタは袋の表示時間より、すこし短めに茹でます。茹で汁はこのあと、炒める段階ですこし使うので残しておきます。

しっかり水気を切ったパスタを、ツナ缶のフライパンに合わせて火にかけます。

全体を混ぜながら、パスタの茹で汁を大さじ1ほど加えて軽く炒め、こしょうを振ったらできあがり。

お皿に盛って、真ん中の部分をすこしへこませるように隙間をつくり、青ねぎを振りかけます。

卵黄をポトリ。その上から、こしょうをぱらぱらで完成です。

🍝ハードボイルド・カッペリーニ

時計を見る。12時30分になるところだった。お湯を沸かしはじめてから、10分ほどしか経っていない。

パスタはそもそも手早くて手軽。今回それをさらに加速させたのが、そのパスタの種類選び。選んだカッペリーニは細麺で茹で時間2分。いうなれば、パスタ界の素麺的な存在だ。

これがスパゲッティなら、7分とか8分茹でる必要がある。ここで5分短縮できたのは大きい。

さらに味のなじみをよくするために、炒める工程で茹で汁を加えることも鑑みて、パスタは固めに茹で上がるよう、茹で時間をすこし短くした。いうなれば、カッペリーニのハードボイルド。ここでもわずかだが、調理時間を短縮できている。

🍝ランチタイム・イン・マイ・ハウス

おっと、自画自賛している場合じゃない。ミーティング前に食べなくては。

まずは端のほうから。パスタをくるくる巻きつけて、フォークを口に運ぶ。うん、いい感じだ。暑い日に体が欲しがる、エイジアンな味付けだ。

もうすこし食べ進めてから、フォークを卵黄に突き刺す。どちらかというと、無愛想な色に仕上がったパスタに鮮やかな黄色が広がっていく。

ツナをしっかりすくってから、卵黄のからんだパスタをフォークに巻きつける。さっきまでのどこか尖ったアジアの味に、やさしさが生まれる。まろやかな卵黄の風味。そしてコク。

洋食屋さんのハンバーグ、ごはん、サラダみたいなランチメニューと比べて、パスタはそのひと皿に集中して食べられるので、進みが早い。きょうみたいな時間のないときには、そんな利点もある。

食べ終わって時計を見ても、洗い物まで済ませる時間がじゅうぶん残っていた。ショートカットになってしまった昼休み、残り時間はミーティングのあとにコーヒーでも淹れようか。

それともコアタイムが過ぎたら、きょうは早めに片付けてもいいかもしれない。すこし早めにビールを飲むのも悪くない。もちろん仕事の進捗次第だが。

🏢オーディナリ・デイズ

Webミーティングアプリを開いて待つ。ふと部屋の窓から外を眺めた。リモートワークが定着する前には、早朝と夜、そして休日しか目にできなかった光景だ。

平日、家にいることが増えて、この街にはたくさん、建設中のマンションがあることをあらためて認識した。工事の音が常にどこかから聞こえてくるからだ。

もうなにも新しいことのない、慣れ親しんだと思っていた街。そんな街はいまも成長を続けていた。平日の景色は、自分の知らない日常の時間の中で流れていたのだ。

働きかたも変わる。街も変わる。きっと、自分もまだ自身の知らない変化や成長を経験するのだろう。リモートワークがもたらした、日常の変化。それはみずからの視点を、リフレッシュしてくれるものでもあった。

見慣れた風景、慣れ親しんだ習慣、毎日のルーティン。それぞれ心を落ち着かせてくれるものでもあるし、なにより一定のリズムに生きることは、ストレスを感じない。

📆チェンジング・マイ・ライフ

でもそれでいいのか。それだけで、日々は充実するのか。

変化は刺激になり、思わぬアイディアを生み出してくれることもある。

もし日々の安定に身を任せることになじんでしまい、変化を避けるようになってしまったら。そこには、みずからの進化はないのかもしれない。

ある意味で抗えない強制でもあった、リモートワークの毎日のおかげで、これしかないと思っていたライフスタイルに変化のあった人は多いだろう。

そこにストレスを感じたのか、興味を見出したのか。すべての人にポジティブであれとはいえないが、すくなくともわたしは、前向きに受け入れたんじゃないかと思う。

🏠️ステイ・オア・ゴー

おとなになり、学生の頃にあった633で押し出されるタイムリミットがなくなった。ふと気がつくと、みずから動かない限り、死ぬまで続く変化のない環境や所属の中で自分が生きてきたことを知らされた。

その環境を変えることを、勇気と呼ぶ人も多い。だが果たしてそうだろうか。それを興味や期待、希望という言葉に置き換えることはできないのだろうか。

社会人になってからできた、友人たちの顔が浮かぶ。そういえば、彼や彼女は、わたしと知り合ったこの環境、この組織を旅立っていった。そんな人もいるのだ。

彼の目には希望が映り、彼女の胸には期待が育まれていたのだろう。

きょうの仕事が終わったら、久しぶりに彼女に連絡してみよう。そしてあのとき、どんな気持ちでわたしに卒業を伝えたのか聞いてみよう。期待に満ち満ちていたのだろうか。

人生は選択肢の連続だ。しかし、ひとつの場所に落ち着くことに安らぎを感じてしまうと、次々現れるそれすら、見落としているかもしれない。

動くのか動かないのか、とどまるのかとどまらないのか。それは自分自身に与えられた権利で、常に現れる選択肢なのだ。

彼女の連絡先をSNSの友人リストから探していると、モニター越しの声がした。Webミーティングのはじまりだ。

わたしの変化がはじまるのか、はじまらないのか。画面の向こうのマネージャーはそれを知らない。教えてくれない。決めるのはわたし自身なのだ。

会議ははじまる、時間は過ぎる。明日はまだいつものとおりだとわかってる。でもわたしの日々はいつか変わるだろう。

いつしか空は夕日の色に染まっている。窓の外の風景は、刻々と変化を続けていた。

今回はショートストーリーにしてみました。在宅ワーク、みなさんもきっと経験してますよね。どうでしょう。通勤生活より快適に感じますか。そんな働きかたが日本中に普及するなんて、ひと時代前の現役の人からは夢のようだったかもしれません。でも、変えようとすれば変わるんです。もし、自分の周りに変えたくても変わらないものがあるとしたら、自分が本当に変えたいと思っているのか、自問してみることにしています。そしてやはり変えたいのであれば、なにが障壁なのかを突き止めて、まずそこを動かす。たとえ時間がかかっても、そんなふうにして理想に近づけるようにと考えています。


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tokeiya
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