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春の東北湯治⑤【川渡温泉交友録 ミラクルが起こる】

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 高東旅館に来て4日目のこと、小さなミラクルが起こった。

 私がこちらに到着した同日から隣室にお泊りの仲良しご夫婦。
帰り際にお名前を伺ったKさん。宮城県の松島町から来ているという。お二人とも凄く気さくな方で、台所や談話室で顔を合わせるといつも四方山話が長くなった。

 今から2年前、ご主人が体調を崩され全身に激痛が走り動けなくなってしまったそうだ。「トイレにも這っていくような状態」と奥様。
私も寝たきりになりベッドで煩悶する日々を何度か経験しているので、その不安と恐怖は良く分かるつもりだ。

 病院に行って検査を受けるもどこも悪いところが見当たらず、湯治をすることに決めたという。初日には膝の痛みが治まり始め、2日目にマッサージを頼み、3日目には宿の周りを散歩できるようになったそうだ。清廉恪勤なご主人には、ゆっくりする時間も必要だったと振り返る。

 このエピソードは新聞記事にも取り上げられており、旅館の娯楽室でその切り抜きを確認することが出来る。


 本滞在中に随分と親しくなり、別れを惜しみ夫妻を見送る時のことだった。
 
奥様 「私たちは5月になると田植えも手伝うのよ」
私  「そうなんですか」
   「んっ??去年もやっていましたか?」
奥様 「やっていたわよ」
私  「だとしたら、その日お目にかかっているかもしれません。私もここにいたので」

 昨年の5月15日に私はこの宿を訪れ、翌日に旅館裏の田んぼで田植えを手伝う有志達を見ていた。その姿を写真に収め、その時の様子を記事にもアップし、見出し画像に使用している。

 部屋にスマホを取りに戻り、再び廊下に出た。奥様の横に立ち、一緒に画面を漁るとその時の画像を発見。

 写真をズームアップしたその時。

奥様 「アッ!!これ私よ」
私  「本当ですか?凄いっ!」

 一枚絵の中に収まっていたのは、高東旅館の御主人と女将さん、息子さんにお孫さん。そして、Kさんご夫婦の姿が。豆粒くらいのサイズで顔は識別出来ないため、加工をせずに記事に使用した。

左に写っている奥様と農耕機付近のご主人

奥様 「談話室で声を掛けたのを覚えているわ、パソコンできるなんて凄いわねって」
私  「うーん、すいません。お顔までは覚えていなくて(汗)」
奥様 「それはそうよ。何か感動するわね」
   「今年は一緒にどう?」
私  「ごめんなさい、その頃は通院で埼玉に戻っています」
奥様 「秋は稲刈りとお祭りもあるから」
私  「またどこかのタイミングでお目にかかると思います」

 袖振り合うも他生の縁。一度床に伏せた私とご主人を引き合わせた高東旅館。まるで磁力に引かれ合うように私達は再開を果たした。

 そしてまた。

主人 「9月の祭りの時は楽しいですよ。御神輿を担いで、その日は藤島さん(隣の旅館)でお寿司を食べるんです」
私  「身体がボロボロなもんで、、」
主人 「見ているだけでもいいんです。中止になるかもしれませんが」

 もう病気は全快されたのか、とても元気で溌溂としていた。

 帰り際、「温泉卵が余ったから」と奥様。こちらもお裾分けの定番の品だ。「ティッシュペーパーの余りもよろしくね」とご主人。最後に記念写真を何枚か撮り、軽自動車に乗り込み宿を出るところまで見送った。

 それから1時間足らずに、4個くれたうちの一つの温泉卵は舞茸うどんにオン。午後の仕事への活力として、キッチリ胃袋に流し込んだ。

 週半ばになり、賑やかだった本館は水を打ったように静かになった。夕刻、トイレの掃除で回る高東のご主人と廊下でお会いした。

私  「なんか、急に寂しくなってしまいましたね」
主人 「大丈夫、またすぐ来るから」
私  「そう言えばそうでしたね」

 
 この時、千葉方面から車を飛ばし、虎視眈々と鳴子入りを目論む一人の女性がいた。

                           令和4年4月22日

川渡ゲートを潜ると湯治場の世界へ
とっても仲良しのKさんご夫妻
仲間がどんどん帰っていく また秋の頃に会えれば
温泉卵 いただきましたよ

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ヨシタカ
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