さすらいの秋旅 弾丸三県湯巡りへ⑦最終回【嗚呼、愛しの五十沢温泉】
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六日町駅から東に10キロほど行くと、難読温泉、五十沢(いかざわ)温泉がある。所謂温泉街はなく、「ゆもとかん」のみの一件宿。
こちらも超が付くほどの美肌名湯として、ファンの間ではよく知られた温泉だ。
本館は専用マイクロバスが並ぶ大型のホテル。ビジネスプランや魚沼の地物がメインの2食付きスタンダードプランまで、幅広い客層のニーズに対応しているようだ。ロビーには多くの有名人のサインが壁面にびっしりと。人気の高さを伺わせる。
最近になり駐車場スペースにコインランドリーが新設されるなど、新たな連泊需要を取り込む姿勢も見られる。全室wi-fiも完備だ。
何といってもこちらの自慢は、かけ流しの源泉。湯触りの良いアルカリ性単純温泉は、内湯と大露天、小露天と3つの浴槽を循環なしで満たす。
実はこの源泉、本館から数百メートル引湯されている。
引湯元は本家の「ゆもとかん(旧館)」。
自炊場(現在はコロナの影響で閉鎖中)もあり、主に湯治や登山客、山菜採りの客で賑わったそうだ。
本館のホームページにも一切こちらの「旧館」の情報は見当たらず、目だった看板もない。私は以前本館の露天で居合わせたお爺さんに旧館の存在を伝え聞いた。
秋旅に出発してからのことだった。宿に予約の電話を架ける。
私 「あの、そちらに泊まりたいのですが、」
女性 「うちがどんなところかご存知ですか??」
私 「ええ、大丈夫です。全国の湯治場を回っていますので」
女性 「そうですか。来てから”想像と違う”と言われても困るのでね」
湯治場に電話をすると、時々同様のやり取りをすることがある。
湯治場には浴衣やタオルもなければ出迎えもない。本館と間違えて予約をすると、「サービスの悪い宿」となってしまうわけだ。
14時過ぎ、ちょっと早めの到着。
こちらは日帰り入浴もやっており、既に入浴客の車が数台。玄関入ってすぐ横の居間に宿番の女性が座っていた。
私 「すいません。少し早く着いてしまって」
女性 「大丈夫ですよ。おあがりください」
「コーヒーとお茶、どちらにしますか」
いかにも人が良さそうな方で、茶菓子やミカンなどが次々と。
私 「こちらの存在は知りませんでした」
女性 「こっちが本家ですよ。玄関にカラーコーンが4つあったでしょ。あの下から源泉が出ています」
もう80近くなるというこの方。かつては西武(プリンスホテル)に勤め、全国のホテルを転々とされたそうだ。暫く話を伺うことができた。
日本一の豪雪地帯でもある本地。かつて消雪パイプ用に井戸水を掘ろうをボーリングしたところ、何と50度の源泉をあてたようだ。
旧館は木造の二階建で、多くの観光客ですぐに手狭になってしまい本館を増築したのだという。
しかし巨大な本館を増築しても尚、かけ流しで全てを満たす潤沢な湯量。聞くと近くのリハビリ施設併用の温泉施設にも分湯しているのだという。
一通りの案内を受け、すぐに駐車場に行きカメラを構える。
カラーコーンで四隅を固定された鉄板。下からはゴゴゴッという音が微かに聞こえる。そして、湯元から旧館浴室までの距離、10mとない。
「よしっ、当たりだ」
私にとっては絶景百選。湯は鮮度が命だ。
何度も訪れている本館の湯も素晴らしいが、それ以上を期待できそう。一旦部屋に荷物を置こうと2階に上がると、更なる衝撃。
私が一人で泊まる部屋、何と24畳もある。一人の湯治場は4畳半も慣れてるが、逆にその広大さに圧倒されてしまう。
女性 「広すぎるかしら、たまに嫌がる人もいるのよ。怖いってね」
私 「だ、大丈夫です。」
得したような気がしたので、そのままで。
襖仕切りがあったので、ハーフの12畳にして使用することに。日中は両方向から陽が入り気持ち良かった。
浴室は男女別の内湯のみ。湯治場らしく石鹸シャンプー類は持ち込みだ。こちらの湯船は6畳スペースほどか。このサイズを満たすには十分すぎる湯量だ。硫黄臭あり、かけ流しのため激熱だが素晴らしい湯だった。
夕食も迫り、再び17号方面へと出て行く。
向かったのはテレビなどでも度々紹介される『うおぬま倉友農園直営店「おにぎり屋」』。魚沼産の中でも、最高評価と言われる旧塩沢町産の新米。私の知る限り最もうまい米を食べられる店だ。
多様な具材が並ぶ中、注文は少々邪道「カツカレー(800円)」。
私はカレー激戦区神田が勤め先から近く、散々食いつくした自負があるが、ここのカレーは無双の存在。何せ日本一の米に合わせるのだ。宿に戻り実食。
「きっ、効く。。。」
館内の宿泊客は私一人しかおらず、数時間に一度通る車の音しかしない静寂なこの地。建物は年季が入っているが部屋は綺麗で、この時期天敵のカメムシの登場もなかった。
こちらの宿、消費税等込で3,970円(以前は3,000円だったそうな)。
湯治場は割と回りつくした感があったが、これほど居心地の良い宿を見落としていた。
恐らくこの宿も、また訪れることだろう。夏には少々激湯になってしまうため、狙うのはやはり新米のこの時期。1週間ほどのいても良い。
電波は入るが宿にはWi-Fiはない。私はポケットWi-Fiを持ち合わせていたため問題なかったが、ワーケーション目的で行くのであればその点は留意を。
寒さから表れ始めた激痛。少々強行軍だったが、しっかりと抑え込んだ良き旅だった。
3泊4日の貧乏湯治旅。我ながらかなり上質な行程だった。
豪華な懐石料理など食していないが、会津若松でいただいた地鶏の朝ラー。魚沼で食した新米は、ここでしか食べられないものだ。
本編には記さなかったが、八海山の麓の「雷電様の水」で給水した湧水も美味かった。勿論、無料だ。
そして本旅の宿代。
1泊目:3,500円(那須湯本 民宿くさの)
2泊目:5,000円(宮下温泉 ふるさと荘)
3泊目:3,970円(五十沢温泉 ゆもとかん旧館)
計:12,470円
高級旅館なら1泊で吹き飛んでしまう価格だが、決して上記の3件は悪い宿ではない。出迎えや見送りがない、アメニティがない等の不便は事前に分かっていれば用意をすればよい。
年々ボロ宿嗜好が強くなる私にとっては、全て居心地の良い宿だった。
そして今回も私の激痛を癒してくれた源泉、その数10湯。
那須湯本の共同浴場が無料開放、只見線沿いも200円募金箱スタイルと格安で、日帰り浴場の平均単価は@300円であった。1件地雷を踏んだものの、それ以外は全てかけ流しだ。
これぞ湯族の楽しみ方。納得の週末であった。
規制緩和により、週末の観光地も賑い出すだろう。温泉を、湯治をもっと身近に。こんな貧乏旅行も、悪くないですよ。
『さすらいの秋旅 弾丸三県湯巡りへ』おしまい
令和3年10月22日
<五十沢温泉 過去記事>