同僚と、湯治に行く②【山を歩く 五色沼へ】
<前回はこちら>
磐梯熱海駅前に到着し、まずは入植の儀式。温泉地には必ずと言ってよいほど存在する「温泉神社」を参拝。
源泉が天与として崇められてきたことを示す貴重な資産、後輩Hと共に五円を投金。平癒を願い立礼。手負いの2人は閉眼したまま動かない。長い。
民間療法の域を出ない湯治。私の激痛も彼の皮膚病も、様々な治療法を試し今に至る。藁をも縋る思いでここまで来た。
行き過ぎた信仰は危険だが、源泉により多くの患者が救われ、武田氏や北条氏など、意気軒昂な戦国大名ほど温泉を大切にしてきたという事実。決して軽んじることは出来ない。
「頼む、効いてくれ!」
想念していることは、二人一緒だ。
14時を回り、「湯元元湯」へと向かう(こちらの浴場は変則料金、終日500円だが午後2時から300円になる)。浴場には、やはりアトピー患者が何名かいた。
今夏、最後の交互浴。かけ湯を済ませ、ファーストダイブを決めた。
私 「どうだい?痒くないか??」
H 「大丈夫です!めっちゃ気持ちいいです」
私 「無理するなよ。キツかったら先に上がってくれ」
ないとは思っていたが、この時点で「痒い」と言われてしまっては湯治は終了だ。とりあえず一安心。
こちらの元湯は29度と34度、そして50度の混合泉。
浴感は体温より少し低い程度か。私は温湯に浸かり始めると1~2時間は平気で入っている。とりあえずは最初は1時間ピタリ、見事なダイブだった。
6泊するのは前訪の際にもお世話になった「温泉ゲストハウス湯kori」。
安さと快適さで投宿を決めた。平日は税込で3,500円を下回る安さ。館内も綺麗で何の不満もない。
4~5名ほどのスタッフが日替わりでオペレーションされているこの宿、前回もお見受けした女性と再開を果たした。いつもニコニコしていて、気持の良い対応が印象的だった。
女性 「ヨシタカさん、またお越し下さり有難うございます!」
私 「覚えてますか、うれしいです」
女性 「前にヨシタカさんに聞いてから、私も元湯に行きました!2時間入ってましたよ」
私 「それは良かった。今回は連れが。彼はアトピーの治療。長くなりますが、お世話になります」
女性 「トイレ付きの部屋、用意しておきましたよ」
手続きを済ませ、案内された部屋へ。暫しPC作業をした後は、夕食に外へ出た。向かったのはこちらも前回も多用した「あたみ食堂」へ。
私は名物のスタミナ定食を注文、Hがカツ丼をオーダーしたのには驚いた。
私 「あれっ、糖質制限は?米食って大丈夫なの??」
H 「一日一食くらいなら、麵類は3か月に1回くらい」
私 「そうか、随分良くなったね」
以前より容態が改善され、極端な糖質制限は緩和されつつあると言う。
こちらの食堂、盛が良く何を食べても美味い。カツ丼は想像以上にうまかったようだ。
私は食後にも湯元元湯に向かった。彼はまだ多湯は避け、一日一回の入浴と決めていた。乾かす時間も治療には大切なのだという。
穏やかな旅の始まり、この日彼は朝まで良く寝ていた。
私は病臥して以降、絶対に一人でやってはいけないことがある。
「登山」だ。
いつ来るか分からない発作、山で倒れようものなら命の保証はない。
医師からも推奨されている有酸素運動。どうせなら気持ちよく緑の中を歩きたいものだ。
「ぶっ倒れたら、その時は頼むよ」
Hに補佐役を頼み、私達は五色沼へとトレッキングに向かった。週末に向かうに連れて天候が崩れる予報のため、2日目にメインイベントを持ってきた。
私はこの日のためにワークマンで上下を揃え、トレッキングシューズを新調していた。毎日朝夕の2回、ウォーキングを欠かさなかった。
五色沼は片道4キロ。帰りはバスでも帰って来れるという。平路であれば完歩はさほど難しくないが、挑むのは緑道。初心者向けだというこの散策路。リハビリにはここが最適だと判断したのだ。
磐梯熱海から北上すること40分。到着したのは裏磐梯ビジターセンター。紅葉には少し早いが、気温湿度共に爽快だった。
いよいよ、山に入る。
令和3年9月16日
<次回はこちら>