好きな「ちくま文庫」の本3冊
リアル書店の文庫本の棚を眺めると、だいたい出版社ごとに分けて置かれていることが多いと思います。
例外とも言える並べ方をしている店舗、大手でパッと思いつくのはTSUTAYAぐらい。
最近全然行けてないけど、以前は「著者名の五十音順」だった気がします。今もそうかな?
背表紙ごとに個性もあるので、店頭ならずらっと揃った光景に惚れ惚れ出来たり、自宅の本棚にごちゃ混ぜで置いていても「これはあの出版社の本だ」とすぐピンときたり出来るもの。
そういうわけで(?)、一度やってみたかった「出版社縛り」の本紹介です。
さくさくいきますので、良かったらお付き合いくださいませ。
1.『つむじ風食堂の夜』吉田篤弘
映画化もされているので、書名をご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。吉田篤弘さんの、初期の代表作とも言える連作短編集です。
都市ではない、喧騒からは距離をおいた「月舟町」に住む人々が織りなす、静かで優しい物語。
事件らしい事件が起きるでもなく、ド派手な起承転結もないけれど。穏やかな語り口に五感の満足を満たしてもらいつつ読み進めるうちに、ちょっとした奇跡に出会えます。
数日かけて、寝しなに一話ずつ読み進めるのがちょうど良い穏やかさ。流れるように眠りにつけそうです。
2.『<狐>が選んだ入門書』山村修
著者は図書館司書という本業のかたわら、匿名書評家<狐>として『日刊ゲンダイ』に書評を書き続けてきた人です。どれくらい続けたかというと、週一の掲載ペースで1981年から2003年までの22年半。凄まじい継続ですよね。
「入門書」に絞った書評から成る本書は、週刊連載の継続に裏打ちされた文章力を堪能しているうちに、興味関心の幅が広がっていること間違いなしの一冊です。
だって章立てからして「言葉・古典文芸・歴史・思想史・美術」ですよ。私は正直、本書を読む前まで近づこうとすらしてこなかったジャンルもあります。それをこんなにすっきり読みやすく明快に語るとは…。天晴。
著者が定義する良い入門書は「それ自体が一個の作品」と呼べる一冊ですが、本書もまた「入門書の入門書」として秀逸な作品なのです。
3.『アサイラム・ピース』アンナ・カヴァン
書かずにはいられない切実な衝動を、様々な切り口や手段を駆使して物語へと昇華させた……という印象の作品が並ぶ短編集です。
どちらかというと暗い、大いなる強権を前に打つ手なく選別される、そういう閉塞感と絶望が全体に満ちています。
でも気持ちがとことん落ちている時だと、明るい励ましや前向きな言葉よりも、こういう作品のほうが心に寄り添ってくれることって実際にあるんです。だからおまもりのような気持ちで手許に置いています。
ちなみにアンナ・カヴァンの創作においては、生い立ちやそれ以外の情報が切り離せないものとして語られがちなんですが、それらを知る前に読む方がフラットな気持ちで作品と向き合えると思います。
手に取られる際は、よければ著者紹介に目を通さず読んでみてください。
おまけ:過去にご紹介した名作たち
「好きな◯冊」縛り、出版社別で取り上げるとフィクションもノンフィクションも関係なく選べるものですね。
考えている私はとても楽しかったです。
お読みいただき、ありがとうございました◎
そして、過去に書いた感想でも、ちくま文庫発の名著を取り上げています。
よろしければこちらもぜひ。
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