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--- 人と人の あいだ を繋ぐ糸 ---


冷たい雨の降る土曜日。

立春も過ぎたというのに
ほんものの春が来るのはまだ、
幾分先のことみたいです。

やって来たのは一軒のカレー屋さん。
気分まで塞ぎがちなこんな日は
刺激的なスパイス料理に力をもらおう作戦です。

外壁に這う深みどりの蔦は
屋根の方まで登っています。
店内は昭和ふうの装いで
ラジカセから、歌謡曲が
遠く懐かしく流れてきます。

カウンター席に女の人がひとり。
あとはテーブル席に二組。
私は入口近くのテーブルに席を取りました。

料理が運ばれていった席から聞こえるのは
「お!来たきた」「美味しそう!」という
ちいさな歓声と
カツコツ、カツ、カツと軽快に
お皿とさじが当たる音。
夢中になって食べている姿が浮かんできます。

楽しげな、心地のいいお店。

カウンターの向こうの
どっしりした体格の店長さんは、
真剣な表情でせっせと手を動かしています。




そそる匂いを引き連れて
私の元にも
カレーが運ばれてきました。
黄色のライスに
2種のルウ、4種の付け合せの、
にぎやかなワンプレートです。

いろいろのスパイスと食材がつくる複雑な味。
コクがあって香り高く、スパイシーで、
なに味かと言われると難しいけれど
とにかく「止まらなくなる味」をしています。

これには何が入っているのかな、と
メニュー表の説明書きと
答え合わせしながら食べるが
たのしいお昼。

お腹から心まで
ほっかりと、満たされていきました。



ほどなく、
カウンターの女の人が席を立たれました。

濃紺のデニムにトレンチコートを羽織り、
艶のある黒髪をショートカットに纏めた
綺麗な人。

その方はお代を払い、

「ご馳走様でした。また来ますね。」
と涼やかな笑顔をのこして
去っていかれました。


こういう言葉を
サラリと伝える格好良さ。
その事が
やけに胸に残った場面でした。





「すごく、美味しかったです」

帰り際にひとこと
私も声をかけました。
(引っ込み思案な性格にフタをして)


すると店長さんの顔が
ふわっとほころび、

「ありがとうございます。
またお待ちしております。」

と、やさしい声が返ってきました。

胸の中になにか
ぴゅうっと、さわやかな風が通ります。
嬉しい気持ちをもらったのは
私の方でした。


ドアを開け、
雨のやんだ道、空を映した水たまりの上を
鼻歌まじりに
歩いて帰りました。


周囲との関わりが淡白な世の中。
それでもやっぱり
人と人のあいだを繋げるのは  こころ  です。
目を見て伝える、ほんのささいなひと言が
心を繋ぐやさしい糸になると知った
土曜のできごとでした。

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ち あ き
これからもあたたかい記事をお届けします🕊🤍🌿

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