東京大学2007年国語第4問 『手の変幻』清岡卓行
レンブラントの絵をモチーフに芸術表現の深さについて述べているが、詩人らしく抒情的な文章である。しかし、このような文章でも、文中のことばと論理をたどっていけば、適切な解答例をつくることができる。
唯一、設問(一)にあらわれる「直観的」という単語は、文中に説明がないので、自分のことばで意味をかみくだいて説明する必要がある。
(一)「その秘密の直観的な理解」(傍線部ア)とあるが、どういうことか、説明せよ。
第1段落に「詩におけるさりげないひとつの言葉、あるいは絵画におけるさりげない一つのタッチ、そうしたものに作者の千万無量の思いが密かにこめられたとしても、そのように埋蔵されたものの重みは、容易なことでは鑑賞者の心に伝わるものではあるまい」と書かれている。
したがって、「その秘密」が「理解」されるとは、作品にさりげなく、しかし密かにこめられた作者の深い思いが、鑑賞者の心に伝わることという意味である。そして、「直観的」とは思考や論理を経ないで感覚によることを意味するので、ここでは、思考や論理を経ずに直ちに心に伝わることと表現できる。
以上の事から、「芸術作品におけるさりげない表現の中に作者が密かにこめた深い思想や意図が、思考や論理を経ずに鑑賞者の心に直ちに伝わるということ。」(63字)という解答例ができる。
(二)「ひとしく奥深いところで溶けあっているような感じがする」(傍線部イ)とあるが、「ひとしく奥深いところで溶けあっている」とは、どういうことか、説明せよ。
傍線部イの状態がもたらされるのは、「いかにもレンブラント風なこの色調は、人間の本質についての瞑想にふさわしいものである」からである。
この「色調の雰囲気の中で」、「特殊で個人的な感慨」が、「すばらしい普遍性まで高まって行く」ため、「この絵画における永遠の現在の感慨の中」に、「見知らぬ古代におけるそうした場合の古い情緒」も「見知らぬ未来におけるそうした場合の新しい情緒」も「ひとしく奥深いところで溶けあっている」のである。
以上のことから、「人間の本質についての瞑想に相応しい色調により、その時点の個人的な感慨が古代や未来の情緒と本質的に共通する普遍性を持ちえているということ。」(68字)という解答例ができる。
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