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物語

38
少しずつ書けた物語
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#つくってみた

ことだまり 《ひと色展》

ことだまり 《ひと色展》

泣いているの?

え、どうして?
そう答えたけれど、顎からしたたる水滴に自分自身が一番驚いた
私、泣いてるの?
そう聞いたら、彼女はほんの少し首を傾げながら静かに微笑んだ

泣いてはいけなかった
泣くとオオカミがその匂いを嗅ぎつけて食べにくるから
兄弟が1人、また1人と食べられて行くのを、私はずっと時計の中から見ていた

助けて、お母さん助けて!

そう叫んでいる兄弟を助けることができなかった

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ふたりはともだち

ふたりはともだち

朝起きた時、ゾウは、自分の目が腫れぼったいことに憂鬱になった。
長い鼻で目覚まし時計を止めると「ハァ…」とため息ひとつ。
「あんなこと絶対思っていないのに…」
そう呟くと、またじわり涙が出た。

とにかくご飯を食べて、温かい飲み物を飲まなくちゃ。昨日は晩ごはんもろくに食べられなかったもの。
そうよ、体の中が空っぽだからこんなに悲しいんだわ。

ゾウは、冷蔵庫からモリモリの野菜を取り出して、ボウルに

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よもぎは花束になりたい

よもぎは花束になりたい

蓬田は、女の趣味が悪い。

うっすらと意識しているような、それでいて恋の対象とはまた違うような、とにかく蓬田という男子に惹かれていたのだが、蓬田は、どういうわけか、私が好きになって欲しくない女子が好きだ。

クラスには、男子がみな夢中になる女子がいた。
声色は高く、肌の色は色素が少し抜けているような透明感があって、それなのに、ケラケラとよく笑い、親しみやすさを醸し出している。
特段美人でもないのだ

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