
- 運営しているクリエイター
2022年7月の記事一覧
連載SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅸ.再生(最終話)
Ⅸ.再生
まだトマが暖炉の側ですやすやと眠っている中、旅立つカイムを見送るためにティエラは小屋の外に出てきた。
「お前さんの魂は、連れてかなくていいんだな?」
「ええ。可愛いトマがいるもの。命が尽きるまで、あの子といるわ」
ティエラは、カイムに向かってにっこりと微笑んだ。
「そうかい。俺がここからいなくなれば、トマの『鍵』も外れて、すぐに大人になるだろう。きっと、これからも延々とお前さ
連載SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅷ.夜更け
Ⅷ.夜更け
トマが泣き疲れて深い眠りについた頃、ティエラとカイムは食卓につき、向かあって座っている。
ふたりは、声を潜めてゆっくりと話し始めた。
「ティエラ、お前さんは、あとどれくらい生きられそうなんだ。あいつに会って、『鍵』を外してもらったんだろう?」
カイムにそう言われ、ティエラは口に含もうとしたホットミルクの入ったカップをテーブルに置く。
「カイムは、何でも知っているのね。私
連載SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅶ.トマの願望
Ⅶ.トマの願望
あれから、半年が経とうとしている。
トマは、空を流れる星々を目で追うこともなく、ただただ毎日、地平線を黙って眺めるようになった。
「どうしたんだ、トマ。今日のスープをまだ食べてないじゃないか」
すっかり口数が減ったのを心配して、カイムは窓辺のトマの元にやって来た。
「カイム、僕は待ってるんだ。また、この惑星が緑の記憶を思い出すんじゃないかって。あの暖かい世界に、僕は
【再開】連載SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅵ.惑星の記憶
Ⅵ.惑星の記憶
トマの指さす方角に目を凝らすと、白い靄のかかった地平線に、ざわざわと黒い影がうごめいている。
その影は、氷の大地を素早く覆うようにして、ものすごいスピードでトマやカイムの方へと近づいてきた。
トマとティエラがカイムの元に駆け寄ると、カイムはふたりを守るように翼で力強く抱きしめる。
その瞬間、生ぬるい突風が、氷の舞台をなぎ倒し、カイムから抜け落ちた黒い羽根を空高く舞いあ