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あの大空に撃ち抜かれた、中3の夏

中学3年の春まで読書が好きじゃなかった。

朝読書の時間とか夏休みの読書感想文を書くために本を読むことがとにかく面倒くさくて、

「なんでこんなことやんなきゃなんないんだろう。漫画読んでる方が面白いじゃん。」

と本気で思っていた。

その年の夏休みも例に漏れず読書感想文の宿題が出たので、そのための本を本屋さんで探した。
なんでもいいかなぁ、と適当に歩いていた私の目に鮮やかな青が飛び込んできた。
広大な青空を彷彿とさせるような、綺麗な青だった。

その本を目にした時、何故だか立ち止まってしまった。
実際に手に取ってみると、なんだか手に馴染んで離したくなかった。
私は迷うことなく、これで読書感想文を書こうと決めた。

物語の詳しい内容やどれくらいの時間で読破したのかを、正直覚えていない。
でも何かに圧倒されて、今まで感じたことのない感情に自分が翻弄されて、思考や心臓をギュッと掴まれたような激しい苦しさを感じたことだけは鮮明に覚えている。
読み終わった直後は、受験対策のために通っていた学習塾に行かなければならなかった。
私はその激しい感情に圧倒されながら、塾での講義を受けていたけれど、まるで頭に入ってこなかった。
手は辛うじて動かしているものの、自分の中にある激流を制御しきれずにただただ時が過ぎるのを待った。

初めて知った。
物語でこんなに感情が動くということを。
読書がこんな体験をもたらすということを。
本の中に書かれているのは文字だけなのに、こんなにも鮮明に立体的に五感に訴えかけてくるのが不思議で興奮して、楽しくて仕方なかった。

「読書ってこんなに楽しいんだ」
「物語には人の感情を揺さぶる力があるんだ」

と、私は夢中になり、その夏シリーズ全巻を読破した。全6巻あった。

それ以来私は読書の虜になり、休み時間だけでは足りずにあんなに面倒くさがっていた朝読書の時間も、家に帰ってからもずっと本を読むようになった。
特にシリーズ物のファンタジー小説が大好きになった。

だから私は読書感想文に感謝している。
読書を面白いと思わせてくれる本に出会わせてくれたことを、こんなに楽しく素敵な体験をさせてくれる読書に出会わせてくれたことを。
あの夏休みの読書感想文がなかったら、もしかしたら私は本を読むことに楽しさを見出せなかったかもしれない。
そうなっていたら私の世界の半分は形作られることなく、失われていたと思う。

読書感想文が文章を読んで要約する技術を身につけるためのトレーニングで、必ずこなさなければいけない課題なのだとしても、私は読書に夢中になるきっかけをくれたことを本当に感謝している。

あの時の感情を、私は一生忘れないと思う。

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とびこ
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