もし新卒1年目の新入社員が『もしドラ』を読んだら
前置き
『もし野球部の女子マネージャーがドラッガーのマネジメントを読んだら』という本をご存知でしょうか。ひと昔前に流行った小説で、とある野球部の女子マネージャーが、「経営学の父」と言われたピーター・F・ドラッガーの書籍『マネジメント』を読んで野球部の組織改革に取り組んでいく……というお話です。
この本が発売された当時、私は11歳でしたので、キャッチーな本が売れてるんだなとは思いましたが、読んでみようという気持ちにはなりませんでした。映画化されて、話題になったのは(おそらく)2011年のことで、私は中学二年生でしたが、やはり私はこの本を読んでみようなんて微塵も思いませんでした。
そして今、私は新卒の社会人となりました。最近の日本は失われた20年だか、30年だか、40年だか知りませんが、経済に関してはあまり明るいニュースがありませんので、私は自分の力でお金を稼いでいきたいと思い、投資や経営の勉強をしていこうと考えました。
そこでまずはお金に関することや資本に関すること、経営に関することやマネジメントに関することなど、多くの本を読んで勉強しようと思いました。本屋でそれらに関する書籍を物色している時に、ふと『もしドラ』が目に止まりました。
まずは簡単な書籍から読んでいこうと考えていたのと、自分が子供の頃に話題になっていたという記憶があったので、どうせなら読んでみようと思い、この本を購入しました。
感想
マネジメントに関して
始めのうちは、とても参考になる本だなと思っていました。小説なので読みやすいのはもちろん、要所要所でドラッガーの『マネジメント』を引用し、物語の中の野球部と連動してマネジメントとは何かをわかりやすく教えてくれました。
フィクションですので、実行するマネジメント案が面白いように成功していくのも、読んでいて気持ちがよかったです。特に、組織改革に成功した野球部に対し、他の部活からもその方法に関して教えてほしいとの依頼が入り、主人公がコンサルタントとして働いていく場面が面白かったです。なるほど、世のコンサル会社はこのようにして出来上がっていくのだなと思いました。
また、マネジメントの戦略の一つに、「役割を分担し、各人に責任を持たせる」というものがあるのですが、この役割分担も登場人物に無理なく当てはめられていて納得感があり、その内容が頭に入ってきやすかったです。ストーリーが進んでいくにつれて、登場人物も読者も、ドラッガーのマネジメントについて簡単に理解することができるようになっていきます。
ところで、私は今現在、技術者としての新人研修を受けているのですが、プログラムの中に、4人でチームとなり1つのソフトウェアを完成させるという研修があります。初めてのソフトウェア開発にもかかわらず、私たちの班はなぜか開発工程が非常にうまく行っています。
はじめは、班のメンバーが優秀なのだと思っていました。しかし、『もしドラ』の中でドラッガーの『マネジメント』から、次のような文章が出てきました。
簡単にいうと、組織の中ではそれぞれのメンバーが自分の強みを生かせるような仕事を与えるべきである、ということです。これが、人を生かすということらしいのです。
振り返ってみると、私の研修班ではおよそ各人のスキルや性格に合った仕事を割り振ることができていたように感じます。そのために開発が今のところうまく進んでいるようです。
また、幸運なことに、半分押し付けられる形ではありましたが、私はチームのリーダーとしての役割を担っています。この本に出てきたマネジメントのいくつかを自分なりに解釈し、今後の研修でもこの小さな組織で実行してみようかと思っています。
小説として
『もしドラ』は自己啓発本として、『マネジメント』の入門書として申し分ない面白さで、私たちに優しくドラッガーのマネジメントについて教えてくれます。
しかし、小説としても、非常に面白いです。
主人公みなみは、とある都立高の弱小野球部に属する女子マネージャーです。みなみは、病気で入院している友人の代理として野球部のマネージャーに就任します。そしてみなみは、その友人のために野球部を甲子園につれていくと決意します。しかし、野球部は弱小である上に真面目に練習をしていませんでした。
ところが、春の大会での敗戦をきっかけに、野球に真面目に取り組みたいという意欲が見えてきます。ここですかさずみなみは、それまでに準備してきた組織改革や練習内容の改善を『マネジメント』に沿って実行していきます。そしてめきめきと実力をつけた野球部は夏の甲子園予選でどんどん勝ち進んでいき…..
物語のあらすじはおよそこのような感じです。物語の根幹は初代イナズマイレブンと同じ、弱小の成り上がりストーリーです。この分かりやすい設定に加え、メインのキャラクターたちにきちんとドラマがあります。
主人公には入院している友人の夕紀、幼なじみの柏木との物語が、ピッチャーの浅野には自分自身とのまた、ショートの桜井との物語がそれぞれあります。このほか数人の登場人物に各々の成長ストーリーが割り当てられています。
おそらくこれを読んだ人は、初めは面白いし参考になる本だなーという気持ちで読み進めることでしょう。主にドラッガーの『マネジメント』について軽く勉強したいな、と考えるでしょう。私はそうでした。私はこの本を「自己啓発本」として読み始めました。
途中までは、「ふむふむ経営とはこういうことをするといいのか」「なるほど、自分の仕事に責任を持たせることが大切なのか、勉強になるなあ」と読んでいました。しかし、3分の2を過ぎたあたりから、雲行きが怪しくなってきました。気がつくと、あれ?程高野球部は甲子園に行けるのか?これからこの野球部はどう成長していくんだ?と、この本を「自己啓発本」としてではなく「小説」として読んでいました。
もちろん最後まで学びはあります。最後まで、ドラッガーの『マネジメント』について教えてくれます。しかし、物語が終盤に近くにつれて、『マネジメント』がおまけ程度に思えてくるのです。それでいいのかどうかは置いておいて、それほどにこの本は小説としても面白いのです。
最後のクライマックスシーンは、とても感動しました。危うく涙が溢れることろでした。まさか、自己啓発本で感涙することになるとは、夢にも思いませんでした。
おわりに
自己啓発本なんて意識高い系が読む本だと思っているでしょうか?私は思っていました。しかし、『もしドラ』のように面白い本もあるのだということがわかりました。やはり読みもせずに敬遠するのではなく、実際に読んでみてから評価をしないといけませんね。
ちなみに、『もしドラ』は映画化だけでなく、アニメ化もしているようです。少し笑ってしまいました。dアニメストアにあるらしいので、あとで試聴してみようと思います。
五十嵐